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ハルヒVS朝倉 激突 1話 ハルヒVS朝倉 激突 2話
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(これでも三訂版) ・サイレントヒルとのクロスオーバー。グロ描写注意。 「これ、返す」 「おう、やったのか」 有希がキョンに何かのゲームソフトを渡すのが見えた。有希もゲームをするのね、ちょっと意外。どんなのかしら。 「それ、何?」 「ああ、零だよ」 キョンがソフトをこちらに見せた。いかにもなパッケージをしているところからするとホラーゲームみたい。あたしが好きなジャンルではないみたい。 「お前はこういうのが好きじゃないみたいだな」 キョンがそう言ったのでびっくりした。 「な、なんで分かったのよ」 「期待して損した、みたいな表情をしてたからな」 そんな表情してたのかしら……。こいつ時々鋭いから困ったものだわ。 「で、有希、それをやってみてどうだった?」 「人間の想像力は……恐ろしい」 いつもより小さな声でそういうと俯いてしまった。 「どうしたのよ有希。まさか、怖かったの?」 「違う」 即答だった。必死さを感じたのは気のせいかしら。 「そんなことはない。決してトイレに行くことが出来なくなったり、布団に潜ったまま翌朝まで身動き出来なくなった訳ではない」 有希……全部言ってどうするの……。 「貸しておいて何だが……スマン」 「いい」 やがて古泉君やみくるちゃんがやってきた。古泉君がそのソフトの箱を見るなり言った。 「まさか貴方がそのような分野のを持っているとは思いませんでした」 「興味本位でな。あの怖いCMがちょっときになってな」 すぐにどんなのか判ったってことは古泉君もやったことあるのかしら。ちょっと内容が気になるけど……怖いのよね。 「そんなの怖くてできないです……」 そう呟いたみくるちゃんに同意せざるを得ないわ。 「キョンってどんなジャンルのゲームをするの? まさかそんなのしかないとか言わないでしょうね」 「さすがにそれはねーよ。妹もいるんだしな、パーティゲームとか大衆向けのももそれなりにあるぞ」 「ふーん、じゃあ週末はキョンの家でゲーム大会ね」 「え、ん、まあいいが」 「じゃ決定ね。ということだからみんなよろしく!」 その後、有希は読者を再開していたし、古泉君はキョンとチェスを始め、みくるちゃんは紅茶を選んでいた。 あたしは特に何をするということもなく、適当に検索して開いたページ眺めてた。 さっきの零とかいうソフトについて調べないのかって? 冗談じゃないわ、あんなアブノーマルなのあたしには向いてないもの。 「あ、あれ……?」 気が付くと、あたしは真っ暗な駅のホームに立っていた。 何で? さっきまで部室にいた筈なのに。 慌てて辺りを見回すけれど、ホームどころか駅の周辺からも人の気配が全然しない。 「どうなってるのかしら」 ホ-ムを改めて見回してみる。見たくなかったけれど。 蛍光灯だけが照らしている構内は随分と汚くて、柱なんて赤錆でボロボロになっている。地面のコンクリートが赤いのもそのせいよ。 そのせいよね……。 ここはどこの駅なのかしら。全く見覚えがない。外に明かりはなく、この駅以外は永遠に続きそうな真っ暗闇しかない。 一体何が起こったのかさっぱり分からない。あたしは一歩も動けずに 「いやああああああああああああああああああああ!!!」 その突然の叫び声にあまりに驚いたあたしは、一瞬呼吸を忘れてしまった。 「何!? 何なの!? さっきの悲鳴は何なのよ!?」 パニック寸前のあたしは一刻も早くここから出ようと、改札口へ走った。自分の荒い息遣いと壁に反響した足音だけが聞こえる。 周りを見ている余裕なんてなかった。後で思うと、見なくて正解だったかもね。 恐怖からの逃避を図ったその先で、あたしは地獄を見た。心臓が縮み上がった。全身から血の気が引く音がした。 改札口の辺りは血痕だらけになっていた。床も壁も天井も……、一体何をすればこんなに飛び散るのだろう……。 そして改札機のそばには何かが 「……みくるちゃん!?」 どうして? どうしてこんなことになってるの!? 血まみれになって倒れているみくるちゃんはあたしの声に気付いてこっちを見た。 「みくるちゃん! 何があったの!? しっかりして!」 「涼宮さん…………逃げて下さい…………。この世界は…………もう…………」 「何言ってるの!? みくるちゃん! 」 「……じ………く…………」 「 !」 「………………………」 もうみくるちゃんが何を言ったか聞き取れなかったし、自分が何を言ったかさえ覚えていなかった。 「 !」 「」 「」 「」 「」 「 「 「 「おい、ハルヒ? ハルヒ?」 あたしは気付くと、机に突っ伏して寝ていたみたいだった。額は汗でびっしょりになっていた。 ゆ、夢? そうよね、あんなこと現実にはあり得ないもの…………。 「どんな夢を見てたんだ? 随分と苦しそうだったが、大丈夫か?」 キョンはまだ呼吸の整っていないあたしを心配しているみたい。 視線を移すと、心配そうにこちらを覗くみくるちゃんが見えた。ちゃんとメイド服を来てるし、勿論血なんてついてない。 あたしは立ち上がると、何か話しているキョンを無視してふらふらとした足取りでみくるちゃんに近付いた。みくるちゃんは少し驚いた表情をしていたけどね。そんなのどうだっていいわ、さっきのが夢だっていう証拠が欲しかったから。 「みくるちゃん、何も起こってない……よね……?」 「え? は、はい、いつも通りですよ」 あたしはみくるちゃんに抱きついて泣いていた。 「す、涼宮さん?」 「ちょっと……怖い夢を見ちゃったから……。うん、大丈夫よ……」 みくるちゃんは、優しくあたしを撫でてくれた。ちょっと恥ずかしかったから、悪夢を見たのをキョンのせいにして解散した。 家に帰ってからは、一晩中なんだか怖かった。それはもうキョンから借りたゲームの所為で動けなくなった有希といい勝負だったかもしれない。 けど、何も起こらなかったし、あの夢も見なかった。 でも、翌朝にそれは起こった。 あの悪夢はただの夢だったことにほっとして、何時ものように学校に向かっていたあたしは、突然目眩に襲われて倒れた。 気がつくと、ほほにアスファルトの感触がある。その場に倒れたままだった。 「ったく……誰も助けてくれないなんて薄情な……」 ここは一通りの多い通学路なのに、人の気配が一切なかった。 そして辺りは真っ白な霧で覆われていて、5メートル先も見えない状態だった。 「え? なに……これ……」 何より不安を誘うのが、全くと言っていいほどに音が無いことだった。 音がしないなんて雪が降った日みたいだけど、今は凄く不気味に感じる。 無響室に入れられた人は不安感を抱くとかいう実験について聞いたことがあるけど、今のあたしはそれに近い環境下におかれているのかもしれない。 ここは毎日通る道なのに、どう進めばいいか分からない。電柱とか、特徴がある家とか、そういった目印を探しつつ学校へ向かった。もう家を出てしまった以上、学校に行った方が安全だと思ったから。 そうして何とか進んでいた時、私は不意に足を止めた。 白い霧の中に、ぼんやりと影が見える。その形からして、路上に誰か倒れているようにしか見えなかった。 あの時のよく似た状況の記憶が頭を埋め尽くす。 嫌、見たくない…………。 それでも、あたしには前に進むしかなかった。 重い足取りでも、確実にそれに近づいていた。 やがて霧の中から見えてきたのは、血溜まりに倒れているキョンだった。 「……え…?」 今回は夢じゃない。体を流れる血が冷たく感じた。 「嘘……でしょ……?」 キョンを揺さぶっても、全然反応しない。手も首も、だらんと重力に負けたまま……。 「嘘って……、言ってよ……ねえ!」 あたしの両手が真っ赤になっていた。キョンはおびただしい量の血を流して、温かさを失っていた。 「どうすればいいの……!」 救急車を呼ぼうと思い立って、慌てて震える手で携帯を取り出した。 「……どうして?」 圏外という赤い二文字が画面に表示されていた。助けは来ない、あたしにも助けられない。 キョンは死んでしまった? これはみくるちゃんの時と同じ「夢」……よね……? でも、このべっとりとした嫌な感触や、鉄の臭いは…… ………… ………… あたしは狂ったように泣き叫んだ。声が裏返り、しわがれても構わずに叫び続けた。 「…………!」 あたしは泣くのをやめた。 足音が聞こえた。しかもそれが段々と近づいていた。 「だ、誰……誰なの!?」 あたしは虚空に向かって叫んだ。虚勢でも張っていないとおかしくなってしまいそうだった。 すると、返事が聞こえた。 「涼宮さん!?」 あの声は、古泉君! 良かった……。 霧の中から姿を現したのは間違いなく古泉君だった。 「涼宮さ…………」 古泉君はキョンの亡骸を見て言葉を失った。 「これは……」 「あたしが来た時には、もう……」 「朝比奈さんに続いてまさか彼が……」 その言葉にはっとした。 「みくるちゃんも!? どういうことなの?」 「朝比奈さんは、先日、駅の改札口で」 「何ですって!?」 古泉君の話していた内容は、あの時の夢と全く同じだった。 あたしは頭を抱えた。ひどく混乱していた。信じたくないことばかりがぐちゃぐちゃになって頭の中を掻きまわしていた。 どういうことなの? あれは夢じゃなかったの? 「このままでは、この世界は……終わってしまいます」 それは、みくるちゃんと同じ台詞だった。 『この世界は…………もう…………』 「古泉君、この世界って何なの? 何でみんな殺されたの? この世界はどうなっちゃうの!?」 あたしが古泉君に掴みかかっていたその時、後ろから声がした。 「あら、揃ったのね」 振り向いたけど霧しか見えない。 「誰よ!」 「あら、名前なんて言わなくても分かるでしょ?」 霧の中から、うっすらと影が見えてきた。 「彼を殺したのはあたしよ。話を面白くするには良い演出でしょ?」 笑っているような口調だった。 「ふざけるな!」 あたしはそいつに向かって怒鳴った。 「ふざけてはないったら。彼もあの子も必要な犠牲なんだから」 まさか、みくるちゃんもこいつが……。そう判断した瞬間、自分自身でも驚く程の激しい憎しみという感情を抱いていた。 「良いわねぇ……、良いわその表情……。あたしを殺したいの? 出来るかしら?」 あたしは呼吸が荒くなっているのが分かっていたけれど、それを抑えることはしなかった。 「悔しいのなら、学校で待ってるからいらっしゃい。面白いものを見せてあげるから」 そう言って、そいつは霧の中に消えた。 キョン…… そいつが消えた頃にあたしはようやく落ち着いた。古泉君が霧で真っ白の世界を見回しながら呟いた。 「僕自身も、裏世界にいるのは初めてなんですが……。この霧の世界……、まさにサイレントヒルですね」 「それって……あたし達はホラーゲームの世界に放り込まれたってこと? 冗談じゃないわ!」 本当に冗談じゃなかった。ホラーの世界が現実になったら……とてもじゃないけど、主人公みたいに生き残れる自信なんて……。 「しかし、このままでは何も進展しません。ここで敵の襲撃を受ければ助かる見込みはありません」 あたしは決意した。キョンの仇を取らなきゃ。 「……分かったわ、あたし達が主人公になってやろうじゃないの。主人公は不死身なんだからね」 あたしは別の世界の涼宮ハルヒだと説明すると、古泉君はあっさりと理解してくれた。 なんで不思議に思わないのだろう……。 古泉君によると、この世界のあたしは数日前に失踪してしまっている。それ以来、裏世界と呼ばれるおぞましい空間が発生し、そこで殺人事件が起こっているらしい。 その犠牲者はキョンやみくるちゃんを含めて20人を超え……。 そして、今いるのがその裏世界。惨劇の舞台に、あたし達はいる。 「つまり、狙われてるってこと?」 そう思いたくなかったけど、そう思わざるを得なかった。 あたし達はあの女のいる学校へ向かうことにした。 何かが襲ってこないか不安だったけども、静寂を破るようなことは起こらなかった。 どれくらいの時間が掛ったのだろう、霧の中を歩いて、ようやく学校に着いた。 でも、古泉君は入るのを躊躇っていた。 「どうしたの?」 「裏世界の詳細をご存知ですか?」 「どんな世界なの?」 「その世界の建物の内部はとても凄惨なことになっています。最もおぞましいと言われる程だそうです。覚悟をしないと、精神的に参ってしまいます」 あたしは頷いて学校へと入った。 覚悟はしていたつもりだった。 でも、古泉君が言っていた通り、入った瞬間に食道がケイレンを起こした。 「ぅ…………」 あの時の駅より酷い、酷過ぎる。 「大丈夫ですか?」 何もかもが赤錆と血飛沫でどす黒い赤色になっていた。血の臭いがする……。この学校のあらゆる場所で殺し合いがあったような状態だった。 「ええ。なんとかね……」 蛍光灯は全部割れていて、外の霧が唯一の明かりになっていた。 「かなりの邪念を感じますが……、とりあえず、進みましょう」 「ええ、そうするしかないわね……」 昇降口 まず、自分の上靴の場所を調べる。 履き替えるつもりなんて勿論無い。血でこんなに汚いんだから、土足でも構わないだろうし。 二度と触りたくないくらいに汚い上履き以外は、変わった物は入っていなかった。 「おや、これは心強いですね」 古泉君が見つけたのは、ショットガンだった。弾も幾つか見つけたみたいだった。 古泉君は、弾をポケットに入れると、その一つを装填して構えた。手慣れたように見えたのはどうしてだろう。 「頼れる武器があると、やはり落ち着きます」 こんな物騒なものを手にして落ち着くなんておかしいけど、今は命の危険に晒されているのだから、古泉君が正しいと思う。 「この世界がゲームと同じなら、武器はいろいろと見つかる筈ですね」 なるほど、だから学校にそんなものが置いてあるのね。 あたしも何か役に立ちそうなアイテムはないかと見回すと、傘立てに傘に混じって何かが立ててあった。 手に取ると、日本刀だった。鞘に紐がついていたので、それを腰に巻いて結んだ。 「いいものを見つけたみたいですね」 ショットガンを持った古泉君が言った。 「僕も近接武器が欲しいですね。ショットガンには弾に限りがありますから。銃身で殴るには少々重たいですし」 ズズッ…… その時何かの音がした。 「おやおや、歓迎でも来たようですね」 勿論そのままの意味でないことは知ってる。敵でしょ。 廊下で何かが動いていた。 それが這ってこちらに来ている。だんだんとその姿がはっきりと見えてきた。 ゾンビというのかは分からないけど、人の形をした血まみれの気持ち悪い生き物が近付いていた。 「涼宮さん、下がって下さい」 「いえ、その必要はないわ……」 あたしは刀を鞘から引き抜いて、銀色に輝く刃を見つめた。 決心したんだもの、あたしはキョンの仇を討つまでは……いえ、討っても死ねない! 「弾はもしもの時の為にとっときなさい!」 あたしは目の前の敵に向かって走った。 あたしの姿を認めるとそいつは何やら呻いていたけれど、そんなの気にせずに素早く背後に周りこんで、これでもかという位に斬りつけた。 背中から血を噴き出してもがいていたけど、蹴りを一発お見舞いしたら動かなくなった。 「す、凄いですね涼宮さん」 古泉君の視線で、あたしは大量の返り血を浴びていた事に気付いた。それを見たから、古泉君は少し驚いたのだろう。 「この調子ならノーダメージでいけそうね」 「では、行きましょうか」 1F 薄暗い廊下を歩いて行く。目的地は分からないけど、学校のどこかにアイツはいるから順番に回っていけばいつか見つかるだろうし。 古泉君が腕を組んで壁とにらめっこをしていた。 「これは……困りました。ここには手洗い場があったはずなんですが」 確かに、ここにはトイレがあった筈なのに、真っ赤で気味の悪い壁しかない。 「どういうこと……?」 「特に仕掛けもないようですし、配置が変えられていると考えるのが一番かと」 配置が変えられているだけじゃなかった。とても学校とは思えないくらいに廊下が入り組んでいた。 「なによこれ、迷子になっちゃいそう」 迷宮のような廊下を真っ直ぐ進んで行くと、机と椅子が山のように重なっていて行く手を阻んでいた。 「」 「これはどかしようがありません。仕方ありませんので、引き返しま……」 振り返った時に、あたし達は硬直した。 おぞましい生き物が天井からぶら下がってこちらを見ていた。 さっきのとは形が少し違う。天井から人間の上半身が生えているようだった。 あたしは思わず叫んだ。そして、 「よくも脅かしてくれたわね……!!」 冷静さを失っていた。 刀でこれでもかと言う程に斬りつけた。 「涼宮さん……落ち着いて下さい!」 古泉君があたしを止めた時には、その生き物は原形を止めない程になっていた。 説明してほしい? 簡単にいえば乱切りよ。それ以上は言いたくないから。 あたしは肩で息をしていた。なんでこんなにムキになっていたのだろう。 「冷静になることも必要ですよ。体力も消耗しますし」 古泉君は少し怯えた表情であたしを見ていた。自分の言動で逆上されることを恐れているようだった。 なんだか腫れ物に触るような扱いに感じて悲しくなった。 行き止まりから引き返す途中、あたしのクラスの教室を見つけた。 「何で気付かなかったのかしら」 ちょっと期待してたけど、中に入るとあたしの席もキョンの席も、やっぱり血がべっとりとついていた。 キョンの机の中から何かがはみ出ていた。出してみると箱があり、その中に拳銃と幾つかの弾倉が入っていた。 「何でわざわざ箱に入れてあるのかしら」 疑問に思いながらも拳銃をポケットにしまった。 「おや、これはこれは」 「どうしたの?」 古泉君が掃除用具入れから鉄パイプを見つけていた。 「手頃な武器が見つかりました」 感触を確かめるようにパイプを振っていた。 「ねぇ、おかしいと思わない?」 古泉君は表情を引き締めた。 「ええ、確かに招き入れた割に大した罠もなく、かつこれだけ武器が用意してあるというのは少々不自然です」 「だとすると、この世界にあたし達の味方がいるのかしら」 「そうとも考えられます。しかし過度の期待は禁物です。このように武器を提供するので精一杯なのかもしれませんから」 2F 階段を上ったところでいきなり現れた巨大化したゴキブリみたいな虫の大群に対し、古泉君の鉄パイプが早速活躍した。 古泉君が何とかしてくれていなかったら、あたしは卒倒してたかもしれない。想像してごらんなさい、でっかいゴキブリが顔めがけて飛んできてかじりつこうとしてくるのよ。生きた心地がしないわ。 虫の大群はいまや抜け殻の山となっていた。それを蹴散らして廊下を進み、部屋を確認していく。 「……あった!」 こんな所に部室があった。SOS団と書かれた紙に希望が膨らむ。 でも、扉をあけて中に入るとやはり酷い有り様だった。 「うわ……」 本が棚から崩れ落ちたままの状態で埃をかぶり、みくるちゃんの衣装までもが血で染まっていた。 だけどそんな中で唯一、パソコンだけが血を浴びずに綺麗なままだった。 それには二人ともほぼ同時に気付いた。 「古泉君、あのパソコン」 「何かヒントがありそうですね」 「やっぱり味方がいるって考えで正解みたい。よかった」 スイッチを押すと、黒い画面に文章が現れた。 『このメッセージは条件を満たすと表示されるものであり。そちらとの疎通は出来ない』 あらかじめ用意されたプログラムってことかしら。 『裏世界と呼ばれるその空間は現実から隔離されている別の世界』 これは古泉君から聞いたから知っている、でも、その後に表示された一文にあたし達は首をかしげた。 『しかし、神がその世界を支配すれば、その世界が現実となる』 ……つまり、この気持ち悪い世界が現実と入れ替わるってこと? 冗談じゃないわ。 それより、気になる単語があった。 「神とは何のことでしょうか……」 「少なくとも、良い神じゃなさそうね」 パソコンは神ついて詳細を述べることは無かった。でも、そいつにこの空間を支配されたらおしまいってのは分かった。 『クリーチャーは貴方達の憎悪や恐怖が実体化したもの。冷静さを保てば遭遇する頻度は下がると予測される』 つまり、あたしがもっと冷静になれば厄介な敵は現れなくなるってこと? 「ごめんね古泉君、こっからはもっと落ち着いて行動できるように気をつけるわ」 「いえいえ、謝らなくて結構ですよ」 *** 朝学校に来ると、ハルヒがいなかった。珍しく遅刻をしているようだ。 あくびをしながらその空席を見ながら座った時だった。 喜緑さんが教室にやって来た。そして真っすぐに俺のところに歩いてくる。喜緑さんが俺に用があるということは何かでっかい事件があったということだろうか。 「涼宮さんが登校途中で倒れて病院に運ばれました。これは緊急事態です」 いきなりのことに、俺は仰天した。 「なんだって……?」 俺は机上に置いたばかりのカバンを再び持つと、喜緑さんと一緒に教室を出た。授業? サボりというやつだな。 外で朝比奈さんが待っていた。 「キョン君……涼宮さんが……」 「喜緑さんから聞きました。早く病院に行きましょう」 「こちらに来てください」 喜緑さんに手招きされて近づいた瞬間、世界が一変した。 「へ?」 「ん?」 いつの間にか病院の前に立っていた。空間移動をしたらしい。 って古泉はいないが置いて来たとかそういうことはないですよね。 「既に病室にいます。詳しい話は皆さんが揃ってからに」 病室に入ると、ベッドでハルヒが眠っていた。その傍で古泉が待っていた。 「待ってましたよ」 「ハルヒは一体どうしたんだ」 「目撃者の話では、歩いていて突然全身の力が抜けたように倒れたそうです。その原因は……」 「それは私が説明します」 喜緑さんが割って入った。そんなに難しく深刻な話なのだろうか。心配になってきた。 「現在、涼宮さんの精神は抜き取られて別の世界に閉じ込められているようです」 別の世界って……。 「その空間に干渉しているところですが、情報改変が殆ど出来ていません。彼女にヒントや武器を与えることが精一杯です」 武器? どういうことだ、そんなに危険な世界なのか。 「簡単に言うと、サイレントヒルの裏世界、という表現が貴方がたには一番分かりやすいと思います」 「ぇぇっ?」 隣で朝比奈さんが俺以上に驚愕していた。朝比奈さんも知ってるんですか? 「はい、ホラーゲームの初期作の一つとして有名ですから……。でも、あんなゲームの世界に閉じ込められるなんて……」 そこで朝比奈さんがハッとした表情を見せた。 「もしかして昨日の……!」 「昨日ハルヒがうなされてた悪夢のことですか?」 「はい、それが何なの予兆だったのかもしれないです」 「そんなことがあったのですか。やはり狙われていたようですね」 喜緑さんの言う『狙われていた』というのはどういうことなのだろうか。 「閉じ込められている目的は何なのですか」 喜緑さんは古泉の質問に一切のタイムラグなく回答した。 「彼女を閉じ込めた相手はあくまで本気のようで、ゲームの様に楽しませる積もりは毛頭ないようです。相手の目的は、彼女を生け贄にして神を生み出し、その力で裏世界を現実と入れ替えることと推測されます」 生け贄……? おいおいまてよ。 それって、つまり……。 このままじゃハルヒが殺されるのか!? 「なんとかして助けられないんですか!?」 「何度も裏世界の改変を試みましたが成功していません。また相手の正体は不明で、神がどのような力を持つかも推測に過ぎません」 「そういえば、長門さんはどうしたんですか?」 朝比奈さんの一言で思い出した、長門がいない。なんでこんな時にいないんだ。 「長門さんは……隣の病室にいます」 なんだって? 「彼女は裏世界への侵入を試み、現在涼宮さんを捜索中です」 *** 涼宮ハルヒの精神が隔離された空間への侵入を試みたところ、突然「目眩」という症状を起こし、気付くと学校にいた。 しかしそれは全く似て非なるものであった。配置が著しく変えられた校舎内はどこも血痕だらけで、とても禍々しい光景だった。 ここに涼宮ハルヒがいる。 ……おかしい、統合思念体との連絡がとれないので現在の状況すら把握出来ず、おまけに情報操作が全く行えない。 有機生命体の五感を頼る他ないようだ。 前方に何かがいた。 *** 3F 階段を登り終えたときから古泉君の様子がおかしい。 さっきから落ち着きがないし、まるで風邪を引いたみたいに震えて呼吸も荒い。 「古泉君、大丈……」 思わず後ずさりしてしまった。 古泉君の腕が、ところどころカビのように黒くなっているのが見えた。 「こ、古泉君?」 もう、古泉君は古泉君ではなくなっていた。 「亜阿あああぁ唖あああああああああ!!」 古泉君は意味不明な言葉を叫ぶと持っていた鉄パイプであたしを殴りにかかった。 あたしはなんとか避けたけど、古泉君はまだあたしを狙っていた。 走って逃げたけど、向こうも走ってくる、逃げるのは無理みたい。 振りかぶった隙に鉄パイプを奪い取ることには成功したけど、古泉君は素手での攻撃を止めない。何度も何度も掴み掛ろうとする。 「ちょっと…………やめ……て……」 「ぁぁぁぁぁぁぁ………………あはははははは……!」 古泉君があたしの首を締めようとしてくる。あたしはポケットから拳銃を取り出した。古泉君を突き飛ばしてその隙に距離をおき、構えた。 「ごめんなさい!」 拳銃の弾は、古泉君の頭を貫いた。糸が切れた操り人形のように倒れ、もう動かなかった。 「古泉君……何で……?」 なんでさっきまで味方だったのに突然こうなったの? しばらくして落ち着きを取り戻してから、古泉君の服のポケットからショットガンの弾を取り出す。 その時、何かが光っているのが見えた。古泉君の首に紐に通された鍵がかかっていた。 鍵には「体育館」と書いてある小さな紙が貼ってあった。 *** 痛い……? 寂しい……? 怖い……? 様々なエラーが発生し、私は歩みを止めた。 理解不能、私にはそのような「感情」など……。 では、どうして呼吸が乱れている? どうして過度に背後を警戒する? どうして前進を躊躇う? どうして? それらの自問に答える事が出来なかった。 幾度となく殲滅させた筈のクリーチャーが再び現れた。彼らは執拗に私を喰らおうとやってくる。 それに対して、箒を分解して金属製のパイプのみにしたものを応急的な武器としているが、簡単に折れてしまいもう箒の残りは少ない。持久戦になればこちらの劣勢は明らか。 早急に新たな戦法を練らなければならない、そう思った時だった。 机の上に、いつの間にか機関銃が置いてあるのが視界に入った。 それを手に取った瞬間、メッセージを受信した。 『私達に出来るのはこれ位だけど、これで思いっきりやっちゃいなさい!』 「朝倉涼子……」 統合思念体の干渉はこれが精一杯のようだ。しかし……、 「充分」 私はその機関銃を手にすると、向かってくるクリ―チャ―を飛び越えて走った。 この裏世界はゲームではない。 たとえチートと言われようと構わない。 あらゆる手段を尽くして、この世界を終わらせる。 *** しばらく目を閉じていた喜緑さんが目を開けた。 「裏世界の観測が可能になりました」 待ちに待った知らせだった。ここに来て数時間ずっと気になっていたことをぶつける。 「ハルヒは、長門はどうなってるんですか!?」 「現在は二人共に大丈夫のようです。しかし、裏世界ではキョンさん、古泉さん、朝比奈さんは死んでいます」 「なんだって……?」 「あくまでもあの空間は仮想のものであり、そっくりにコピーしたものです。しかし、世界が入れ替わった場合はそれが現実となり、その時にはあなた方は消えてしまいます」 俺達三人は固まってしまった。 十数秒たってから、その静寂を破るように、朝比奈さんが消えそうな声で言った。 「消えちゃうんですか……」 「……くぅっ……」 ハルヒがまた苦しそうな声をを漏らした。 自分に何もしてやれないことに腹が立つ。俺達はハルヒに触れることすら許されない。接触すると相手に何かされる懸念があると言う。 目の前で苦しそうに顔を歪めながら眠っているハルヒを見てやることしか出来ない。 頼む、頼むから、無事に目覚めてくれ……。 俺達には祈ることしか出来なかった。 *** 体育館 「やっと来たのね」 古泉君の持っていた鍵で扉をあけると、体育館で待っていたのは予想通りアイツだった。 ここも照明は機能してないけど、霧がわずかな明かりとなってアイツの顔を照らしていた。 ここに来るまでに、アイツの正体はなんとなく分かっていた。 アイツの声は聞いたことがなかった。何故なら、それが自分の声だったから。 「アンタがこの世界のあたしなの?」 「そう、だったら何?」 「何でこんな事をしたの」 「この世界は唯のコピー、いつかは消される運命にある。それが気に入らないの。だから神の力でこの世界と貴方の世界を入れ替えてこの世界を本物にするの。みんな、神を生み出すのに必要な犠牲だったのよ」 神……? 「紹介するね、これがこの世界の神よ」 暗くて気付かなかったけど、アイツの隣に巨大な化け物がいた。 あたしが想像する神は、宗教とかそんなの抜きでももっと綺麗なものだった。 けど、目の前に現れた神は、とても神とは呼べないものだった。 5メートルはあろう神だという生物は、人の形はしているがひどく痩せていて、やはり血まみれだった。 「神は絶対的な存在よ、全てを支配するの。だから、人間は神にはなれないの」 アイツが話を区切る度に静まり返る体育館。「神」がこちらを見ている。その視線を受けたあたしは一歩も動くことが出来なかった。 「この神はまだまだ未熟だから、憎悪という感情が足りないの、だから貴方が神に必要な生け贄に選ばれた。そんな貴方がちょっとでも強力になってもらう為にあの男を殺したの」 あたしの怒りを増すためだけにキョンを殺したなんて……。 でもあたしは何も言えなかった。それに対して怒れば相手の思うつぼだし、こんな魔物の生け贄に選ばれたことがショックだった。 「神に逆らうことは許さない。例えあたしでもね」 突然、「神」はアイツを手にとり、じっくりと舐めるように眺めていた。 「あら、神は貴方よりあたしを先に欲しいみたいね」 「な、何言ってるの? アンタも殺されるのよ」 「いいえ、光栄なことよ。神のヴィクティムになるのだから……」 神は我慢できなくなったのか、突然そいつをまるでスナック菓子のように喰らいついた。 アイツの身体が噛み切られて……。これ以上言わせないで。 「う……わ……………………」 あたしはとっさに目を瞑り、耳を押さえた。それでも骨の砕けるような嫌な音が響いていた。 しばらくして音がなくなった。 どうやら食事が終わったらしいので目を開けるた。「神」は血をぼたぼたと垂らしながらあたしを見ている。 次に喰われるのはあたし。 アイツへの復讐は出来なかった。でも、この「神」とやらをなんとかしないと、この世界は終わらない。あたしは、ショットガンを構えた。 「くたばりなさい!!」 引金を引いた瞬間、強い衝撃で肩に痛みが走った。 あたしのような体格では、反動の大きなショットガンは身体に負担がかかることは百も承知。 でも、これは遠距離からでもダメージを与えられる数少ない武器だから、それくらいは我慢。 肩の痛みを堪え、次々と弾をこめては頭を狙って撃ち続けた。 ダメージがあったのか、「神」は呻き声を上げている。 「やったかしら」 油断してしまった。次の瞬間、その長い腕でなぎ払ってきた。 避けようとすることすらできなかったあたしの身体は宙に浮き、十数メートル飛ばされて叩きつけられた。 何とかして立ち上がったけれど、全身が打撲で痛い。ショットガンもどこかに飛んでいってしまった。こんなに暗い中ではすぐには見つからないから諦めるしかない。 「いっ……たいじゃない………………!」 あたしはふらつきながらも再び「神」と向き合い、拳銃を撃ちながらショットガンを探した。 でも「神」は怯むことなく迫ってきて、またその腕に弾き飛ばされた。 「ぅう……」 床に叩きつけられたときに頭を強く打ってしまい、立ち上がることが出来なくなっていた。 拳銃も暗闇の中に消えてしまった。 近づいてくる「神」から逃げようと痛む四肢を必死に動かして床を這ったけど、すぐに追いつかれてしまった。 あたしはとうとう「神」の手で押さえ付けられてしまった。腰には日本刀があるけど、激しい痛みで手が動かなくなっていた。 血でべとべとの「神」の手に圧縮される気分は最悪だった。 苦しい、息が出来ない。こんな化物に食べられるなんて……。 「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 叫んでもここには誰もいないから無駄なことは知ってる。けども、最後までこいつに抗っていたかった。 その時、「神」の荒い呼吸に混じって、誰かの足音が聞こえてきた。 「させない」 ……有希!? 銃声が絶え間なく響いていた。「神」はたまらず悲鳴を上げてのけぞり、あたしはなんとか手から解放されたた。 視界が開けて、音のする方向を見ると有希がマシンガンを撃ち続けているのが見えた。 何十発撃っただろう、「神」は遂に倒れた。それでも有希は「神」が完全に動かなくなるまで攻撃をやめなかった。 マシンガンの音が止む。そして、ガシャンという大きな音を立てて床に落とした。 そしてこっちに駆け寄って、あたしの身体を支えて立たせてくれた。 「涼宮ハルヒ」 「有希……、ありがと」 「いい、私も……一人で心細かった……」 あたしと有希は抱き合ったまま、静かに泣いた。 窓から眩しい光が射している。霧が晴れて、青空が見えた。 外に出ると、校舎は相変わらずだったけど、空気はよどみがなく透き通っていた。 太陽が眩しい。あたしと有希は、その光に包まれていった。 *** 涼宮さんが目を覚ましたようです。 状況説明が困難な為、長門さんが隣の病室にいることは涼宮さんには内緒になっています。 「…………」 涼宮さんと同時に目覚めた長門さんは、ぼんやりと自分の手を見つめていました。 「どうしました?」 「大量のエラーが発生している。身体の制御すら上手く出来ない」 彼女の手は震えていました。 「もう大丈夫ですよ」 私はそっと彼女を抱き締めました。彼女は私に顔を埋めていました。おそらく、泣いていたのだと思います。あくまでも推測ですよ。 数分間そのままでいましたが、長門さんが離れました。 「エラーの削除が完了した」 「では、そろそろ涼宮さんの所へ行きましょう。貴方は涼宮さんにプリンを買いに行ったことになっています」 「……分かった」 「では、情報操作を始めますね」 その時、彼女が小さな声でありがとうと言いました。少し恥ずかしそうでしたね。 情報操作により、私以外は今回の事件についての記憶を失い、長門さんは涼宮さんの見舞いに来たことになりました。これは、トラウマと呼ばれる精神状態に陥らない為の救済措置です。 さあ、私はこの病院にはもう用はないので学校に戻りますね。 それでは失礼します。 inspired SILENT HILL 3 おまけ 長門有希がビビりプレーヤーだったら 痛い……? 寂しい……? 怖い……? 様々なエラーが発生し、私は歩みを止めた。 それらのエラーを言語化するならば……、 「帰りたい……」 いっつも助けてくれるパパ(統合思念体)との連絡がとれないから、一人でなんとかするしかない。 でも、この間キョン君に借りたゲームをしたばっかりだから怖さ倍増なの……。 どうしよう、有希泣きそうだよ……。 「こわいよパパ……」 あー来る、こういう所絶対何か来る。ドッキリ要素というものが絶対ある。 こういう時は……、歌を歌おう。 「ある~はれ~たひ~のこt」 ガッシャーン! 突然ドアを突き破ってクリーチャー登場。 「POOOOOOOOOOO! ふっざけんにゃよ! もーやだ! 無理! 終了! 終了!」 私は走りながら思い切り泣いた。いいもん、誰も見てないから……。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁんパパァァァァァァァァ~~!!」 MISSION FAILED... おまけ 2 あのEnd マシンガンの音が止む。そして、ガシャンという大きな音を立てて床に落とした。 そしてこっちに駆け寄って、あたしの身体を支えて立たせてくれた。 「涼宮ハルヒ」 「有希……、ありがと」 「いい、私も……一人で心細かった……」 あたしと有希は抱き合ったまま、静かに泣いた。 突然、窓から眩しい光が射した。 「なにあれ!?」 空中に浮かぶ複数の円盤、それは……、 ま さ に U F O 「有希! UFOよUFO! これは調査しなきゃSOS団の名が廃るわ! あたし達の活動を全世界に広められるチャンスよ!」 あたし達は外に出た。グラウンドに着地していたUFOは合計三機。中から出てきたのは、期待通りの宇宙人! 「ユ、ユニーク(タコさんウインナー……)」 「ねえあなたたち! どこから来たの?」 「 %*#\$@=-@!」 「な、何言ってるのかサッパリね……」 「意思疎通は困難と思われる(おいしそう……)」 「+ |\ ; *// #!」 宇宙人が取り出したのは、光線銃? ビビビビビビビビビ いきなり有希が撃たれて倒れた。有希は痺れて動けない様子だった。 「………………ユニー……ク…………(一口だけでもかじってみたかった……)」 「有希ー! 有希ー! ユニークとか言ってる場合じゃないわよ! アンタ達! 何するのよ!」 「 *#/(^^) $/-!」 すると今度はあたしに光線銃を向けた。 「な、何よ! やめなさ……いやあああああああああああああ!!」 そして動けなくなったあたし達はUFOに乗せられて…… ユニーク(笑)
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涼宮ハルヒのOCGⅡ う、嘘だろ・・・。目の前には麗しの上級生朝比奈さんがいる。いつもなら俺を癒してくれるその笑顔も、今だけは俺に何の効力も持たなかった。何故かって? 俺のライフポイントは0。朝比奈さんは8000。んで今は朝比奈さんの先攻2ターン目。さて、何でこんな状況になったのか、まずはそれを説明しなければならんな。5分前に遡るとしよう。 古泉の関係者の売却と、長門の情報操作のおかげで文芸部室には大量のカードが集まっていた。前者はどうもハルヒの力らしいが、今回ばかりは俺にプラスに作用したぜ。デッキを調整しなおした俺は、何故かデュエルができるらしい朝比奈さんと決闘することになった。ゆっくりとデッキをシャッフルする朝比奈さん。何をやらしてもこの人は絵になるな、うん。そしてジャンケンは朝比奈さんが勝って俺は後攻になった。まずはお手並み拝見と行くぜ。というかこの時気づくべきだったんだろうな。朝比奈さんがいつもと違う種類の笑みを浮かべていたことに。 「えーっと私の先攻です。ドローします。ドローフェイズ、スタンバイフェイズ、メイン入ります。」 なんか本格的だな。俺は正直ドローフェイズなんて意識したことなかったぜ。対象を取る云々もよくわからん。 「手札から大寒波を発動します。終末の騎士を召喚。効果でデッキからゾンビキャリアを墓地へと送ります。手札を一枚デッキトップに戻してゾンビキャリアを蘇生します。6シンクロしてゴヨウ・ガーディアンを特殊召喚します。ターンエンドです。」 まて、俺の前にいるのは誰だ?長門でもハルヒでもなくて、いつも甲斐甲斐しくお茶を淹れるSOS団マスコットキャラのメイドさん、朝比奈さんだぞ。初ターンに6シンクロという戦術と普段の姿にギャップがありすぎる。前言撤回、お手並み拝見なんてしてる場合じゃない。というか未来のデュエルレベルってどうなってるんだ? 「俺のターン、ドロー。」 とはいえ大寒波をいきなり食らってるのでこちらも何もできん。とりあえず魂を削る死霊をセットしてターンエンドだ。こいつなら戦闘破壊もされないしな。ターンエンドです、朝比奈さん。 「では私のターンですね。ドローして、メイン入ります。増援を発動、デッキから終末の騎士を手札に加えます。」 手つきはいつもの朝比奈さんなんだが、表情が違う。いつかの公園で自分が未来人であることを告白したときのような真剣な表情だ。 「終末の騎士を召喚。効果でD-HERO ディアボリックガイを墓地に送ります。ディアボリックガイの効果発動、墓地のディアボリックガイを除外してデッキから同名カードを特殊召喚します。さらに手札から緊急テレポートを使います。デッキからクレボンスを特殊召喚します。」 また、シンクロですか朝比奈さん。というかあなたに闇属性は似合いませんよ。 「そ、そうですかぁ?闇属性はとっても強いですよ。8シンクロでダークエンドドラゴンを特殊召喚。効果でキョン君の裏守備モンスターを墓地に送りまあす。」 やばい、これでかなりのダメージを食らうことになる。初手の大寒波がかなり効いてるな。まあでもこのターンは何とかもつだろう、多分。 「墓地の闇が三体なので手札からダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚します。バトルフェイズです、全部通れば私の勝ちです。キョン君ゴーズかクリボーありますかぁ?」 とこれで冒頭のシーンに戻るわけだ。2ターンキル。完璧にやられたね。いつのまにか俺たちの周りにいたハルヒや長門もこのデュエルを見ていて、朝比奈さんが俺をあっという間にノックアウトした瞬間、二人とも唖然としていた。(といっても長門は少し目を見開いただけだが)そりゃそうだわな、誰だってドジっ子メイドの朝比奈さんがこんなデッキを組んでくるとは思わないさ。 「すごいじゃないみくるちゃん!次はあたしとやるわよ!」 ハルヒが朝比奈さんを引っ張ってとなりの席に連れて行く。いつもなら「やめてください涼宮さぁ~ん」と可愛らしく言っているのだが、 「ふふっ。受けてたちますよ涼宮さん。」 一瞬朝比奈さん(大)かと思うほど落ち着いていたね、人は見かけによらないとはよくいったもんだ。 「あなたは私と」 そうだな長門、よしやるか。そういえばお前は何のデッキを使ってるんだ? 「ライトロード」 そうか・・・。墓地に裁きの龍が落ちることを願うとしよう。てかなんでライトロードにしたんだ? 「デュエルが早く終わるから。私たちにとって時間は貴重。それに今の時代はワンキル。」 やれやれ。そういえばハルヒは剣闘獣だったっけか?国内ベスト8のデッキがこの狭い部室に全部そろうとは思わなかったぜ。朝比奈さんは想定外だったが、体育祭といい百人一首大会といいSOS団は何をやらせても秀逸だよな、まったく。 「私の先攻。始めていい?」 ああ。構わないぜ。それでもまあ、タイムトラベルをしたり、謎の山荘に閉じ込められたり、誘拐事件が起こるよりはよっぽど平和だ。団員全員が無事で、みんなが楽しく過ごせているんだ。こういうのも悪くない。 「手札より大寒波を発動。墓地にライトロードが4種類いるので手札から裁きの龍を特殊召喚。コストを払って効果発動。手札からもう一体裁きの龍を特殊召喚。ライトロードマジシャン・ライラを通常召喚。3体で攻撃。何もなければ私の勝ち。」 ああ・・・制限改訂が待ち遠しいね。 END
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ああ…なんだこの気分は… 懐かしいこの気持ちは… この温もりは… 心の奥から溢れだすものは・・・ 私を優しく抱いてくれているこのお方は・・・? 『目が覚めた?』 私は・・・ 『やっと会えたね。弁慶・・・』 九郎殿…九郎義経殿・・・ 『君がいなくてずっと寂しかったんだよ。僕は、こんなにずっと君のことを想っていたのに・・・』 申し訳ございませぬ・・・ 『・・・もう、いいのかい?』 はい・・・九郎殿・・・私もいよいよお側に参ります・・・ 『さあ、一緒に行こう。僕の手を取って・・・・』 みくる「あ・・・」 ハルヒ「どうしたのみくるちゃん?」 みくる「今…成仏されました・・・」 古泉「そうですか…義経殿のお側に行けたのでしょうね」 みくる「きっと会えたんだと思います・・・清い魂しか感じませんから(にこっ)」 古泉「ええ・・・」 キョン「ああ・・・」 ハルヒ「よかったわね・・・」 ===「この刀は、九郎様から主達に是非と・・・」=== キョン「!」 ハルヒ「・・・今聞こえた?」 キョン「ああ・・・!」 古泉「貴方が貰っていいそうです。あそこに収められている刀を」 キョン「お、おお」 俺は埃を被っている台から慎重に持ち上げ、鞘からそっと刀を抜いた キョン「これが義経の・・・」 長門「伝説の名刀・・・」 輝くばかりの銀色に染まるその刀は、見る者全てを虜にしてしまうほど美しかった ==平泉の町== キョン「今帰りましたよ。ご主人」 ハルヒ「ただいま!心配しなくてもちゃーんとお宝を持って帰ってきたわよ!」 ご主人は俺達を見るなり顔色を変え、目に涙を浮かべた 主人「きみたち・・・よく帰って来たっ!!」 キョン「い、いきなりどうしたんですか?俺に抱きついたりして」 宿屋のご主人は昔、息子を亡くしているらしい 剣術を磨くと言ってあの洞窟に入り、命を落としたのだそうだ。 その子の雰囲気がどことなく俺に似ていたらしい みくる「あとで私があの洞窟の皆さんの為に御経を詠んでおきますね」 キョン「朝比奈さんってお経詠めるんですか?」 みくる「父に習ったんです。お経だけは絶対詠めるようになれって言われて・・・」 キョン「そうですか・・・お父さんの事、尊敬してますか?」 みくる「はいっ!すばらしい父だったと思ってます!」 朝比奈さんが洞窟の入り口で数時間にわたる長い御経を詠み終えたその後、俺達は平泉の町を後にした キョン「お前が最後に使った術って一体なんだったんだ?」 古泉「陰陽道には、【悲観】と呼ばれる術が存在します。人の憎しみや悲しみ、恨みなどを、時には吸い出し、時には増幅させる。心に鏡を翳し、夢想界へと誘う…そんな危険な術で、本来は使うべきものでは在りませんが、今回はやむなく・・・」 キョン「・・・なあ古泉」 古泉「・・・なんですか?」 キョン「お前は前言ってたよな?自分の術に優しさは無いと」 古泉「ええ・・・」 キョン「救えたじゃねえか」 古泉「え・・・?」 キョン「過程はどうあれ、お前の術で一つの魂を救う事が出来た。内容がどうあれ、お前が放った最後の術はアイツを優しく包み込んだ・・・だから天に昇れたんだ。お前のおかげでアイツは上に行けたんだよ…」 古泉「・・・はいっ!・・・・ありがとう、ございます・・・」 古泉は前に言った。 終わらない戦いは、俺達からあらゆる意味での優しさを奪っているのかもしれないと でも俺は、決してそんなことは無いと思う 人が人のことを想うなら、その気持ちは優しいものだし、永遠のものだ だから俺は忘れないでいたい そういう心を 人を優しく想う気持ち、人を強く愛しむ気持ち それを忘れてしまったら俺は、俺が一番恨むものと変わらなくなってしまう気がするから・・・ 持ち続けていたい、生きる限り その純粋な心を ハルヒ「それでキョン」 キョン「なんだ?人がせっかく素晴らしい考え事を・・・」 ハルヒ「伝火がなくなっちゃったのよ、ほら平泉の洞窟で全部使っちゃったじゃない」 キョン「ああ、そういえばそうだったな」 ハルヒ「他にも色々買いたいものがあるし…」 古泉「・・・と、くれば」 キョン「あそこしかないな」 みくる「あそこですよねぇ~♪」 長門「・・・こく」 キョ、ハル、長、みく、古『『相模へ行こう!!』』 ==相模城下町== 谷口「WAWAWA~忘れ物~俺のかわいこちゃん~~・・・・うおっ!!」 商人「邪魔だよどいたどいた!」 商人B「さあらっしゃいらっしゃい!!!」 商人C「うちは安売り高値買いが基本!!どんと見てってねー!!!」 谷口「NA、NANANAなんだこの町は!?超活気づいてるじゃねーか!」 商人「さあこれが今日の大一番!!買わないと損するよ~」 商人A「珍しい一品が手に入ったよ!先着10名のみ販売!!」 谷口「お、俺にはついてけないぜ…皆すごい商売熱だ・・・・・・ごゆっくりぃ~!!!」 キョン「ようやく着いたな・・」 ハルヒ「け、結構歩いたわねえ・・」 みくる「も、もうへとへとですぅ~ふみぃ」 古泉「おや?こんなところに看板が刺さっていますよ?」 長門「本当・・・」 キョン「なになに?『買物は相模で!!』・・・って当ったり前だぜ」 古泉「それだけ相模は品揃いも良いのでしょう。では町に入りましょう」 ハルヒ「そうね。早く宿を確保して休みたいし」 とりあえず宿屋を確保して二時間ほどの休息を取った俺達は、さっそく色々な買い物をするべく、五人で市場や店を歩き周り始めた みくる「ほえ~流石に色々なお店がありますぅ」 ハルヒ「さっすが有名なだけあって品揃えも抜群ね!・・・高いけど」 古泉「こういう場所では掘り出し物を探したりするのも一つの醍醐味かと」 ハルヒ「それよ!腕がなってきたわ~!それっ、とつげきぃー!!!!!」 キョン「おーいハルヒ、あんまり遠くまでは行くんじゃないぞー・・・やれやれ」 古泉「とりあえず僕達もどこかの店に入りましょう」 みくる「そうですねぇ」 長門「賛成…」 タッタッタッタッタッタッ キョン「なんだこの音は?」 古泉「誰かが走って向かってくる音でしょうか?」 キョン「ああ、それもかなり急いでる感じ・・・」 ???「ど、どいてどいてぇ!!」 古泉「うわっ!」 ズドーン 何処からともなく、しんぷうの如く走ってきた女の子は古泉に勢いよくタックルをかました おい・・大丈夫か古泉~? 古泉「ええ・・・大丈夫です」 キョン「そうか、よかっt ???「ごめんっ!大丈夫だったきみぃ~!?」 うほっ…相模美人とはこういう人のことを言うのだろうか・・・ なんというか・・活発で・・しかしお淑やかそうな・・・ 古泉「大丈夫ですよ。貴方こそ座りながら手を合わせるものではありません。手を貸しますから御立ち下さい。 お姫様(キラーン)」 キラーンってのは俺がつけ足してやった 寒気がするほどのハンサム面だったからな。文句は無しで頼むぜ ???「それもそうだねっ!あたしったらめがっさ不注意でさ~ホントごめんねっ!」 古泉「僕に怪我は在りません、問題無です。それより何やら急いでたみたいですが・・・?」 ???「・・・へ?」 何かを思い出したかのように顔が真っ青になる相模美人。 ああ、どこの町でも美人ってもんは違うぜ ???「ああー!!急がないと父さんにめがっさ怒られるにょろ!!じゃあまた縁があったら会おうっ諸君!!」 相模美人は名前を告げることなく早々に走り去って行ったー 久々にニヤニヤが止まらないぜ こんなニヤケ面をハルヒに見られたら一体どんなことになるか・・・ ハルヒ『なぁにキョン?そのまるで、すっごい美人に会った時になるようなニヤケ面は?』 全世界が、停止したかのように思われた 涼宮ハルヒの忍劇9
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涼宮ハルヒの糖影 起 涼宮ハルヒの糖影 承 涼宮ハルヒの糖影 転 涼宮ハルヒの糖影 結
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涼宮ハルヒの憂鬱 涼宮ハルヒ 鶴屋さん
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俺とハルヒは伊賀の村に生まれ育った。 他の奴らと同じように訓練を行い、忍術を学び村で皆と共に平和な生活を送っていた その日、俺とハルヒは長老に呼ばれ村の一番奥にある長老の家にいた 長老「時間とは、一度動き始めたら止まる事を知らぬ。其れはワシ等の意思とは関係なく、無限に時を刻んでいく」 キョン・ハルヒ「・・・・」 長老「主達は何故この世には『時間』なるものが存在するか考えた事はあるかの?」 ハルヒ「簡単よ!時間が無いと人間は成長しないわ!世界があるから時間があるのよ!」 長老「ふむ…お前はどう思うかのう?」 キョン「まあ大体はハルヒの意見と同じなんですが…時間が無いと何も永遠に始りません。 それじゃ困るからじゃないでしょうか?」 長老「成程…今日お主達を呼び出した理由はじゃな、少し外の世界を見てみたらどうかと思っての」 ハルヒ「それって…」 キョン「まさか…」 長老「然様。主等にワシから教える事はもう何もない」 ハルヒ「キョン!!」 キョン「やったなハル…」 村民「信長の軍がきたぞーッ!!!!」 キョン・ハルヒ「!?」 村民「逃げろー!!」 村民「キャー!!」 村民「助けてくれーっ!」 長老「やはりこの里に上忍のいない今を攻めてくるか…」 キョン「ハルヒ!」 ハルヒ「分かってるわ!」 俺達は長老の家を飛び出すと戦闘音のする場所へ走った キン!!キンキン!! 伊賀者「はぁっ!せいっ!!」 影の軍下忍「遅い」 ザシュッ 伊賀者「ぐっ…こいつら強い…」 影の軍下忍「ふふふ…死ね」 カキィィィン!! 影の軍下忍「!?」 キョン「調子に乗るのもそこまでにして貰えるか?」 影の軍下忍「…」 ヒュン! 相手の振りかざす剣を右に避け、すかさず俺は腰に切り込む シュザッ!!! 影の軍下忍「ぐあっ…」 ドサッ 「ありがとう…助かったよキョン」 なに、構わないさ 「・・・・後ろだキョン!」 !?しまっ・・・ キィン! ハルヒ「危ないわねキョン」 ああ、俺の不注意だ。すまんかった 影の軍下忍「ぐっ…」 ハルヒ「あんたごときメンドーだから刀なんかいらないわ」 影の軍下忍「貴様っ・・!?」 ハルヒの連突きが素早く、正確にみぞおちに叩き込まれる 苦し紛れに放つ敵の正面切りを素早くかわし、後ろに回り込んで脳天に踵落としを華麗に決めるハルヒ ・・・・おいおいそりゃ敵にしても気の毒だぜ こりゃ三か月集中治療コースだな 俺達は次々と敵を切り、突き、薙倒していく ハルヒ「なんだコイツら弱いわね」 キョン「ああ、全く準備運動にもならないぜ」 ???「ほう…今現在、上忍が存在しない伊賀にも少しは腕の立つ輩が居るようだな」 俺たちが声の方向を振り返ると、そこには一人だけ他の敵とは身形の異なる男がいた どうやらコイツがこの軍を率いる長みたいだな キョン「アンタがこの軍を率いる大将か。今ならこいつらを殺さずに見逃してやってもいいぜ」 ハルヒ「もし断るなんて言ったらアンタごと切り倒しちゃうわ」 ???「諦めろ…その腕では我に指一本触れることまかりならん・・・」 キョン「俺達の闘いを見なかったのか?次はアンタの番だぜ?」 ハルヒ「偉そうね。とりあえず名を名乗ってみなさい!覚えないけど」 ???「雷を司る長けし冥府の精霊達よ…我命置く意思知りて我が死雷道に力を示せ… はあああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」 キョン「グッ…大地が…なんだ奴の体に纏わりつく稲妻みたいな光は・・・?」 ハルヒ「アイツ…まさか術力を行使出来るんじゃ無いでしょうね…」 キョン「術なら俺達も使える!!行くぞハルヒ!!」 ハルヒ「ええ!!負けるもんですか!!!」 雷凰丸「我は影の軍上忍、死法力天雷凰丸…行くぞ愚か者ども・・・・・」 キョン「おおおおおお!!!」 ハルヒ「はああああああ!!!」 ハルヒが雷凰丸に放つ二連蹴りを利用して、キョンは相手の後ろに回り込み抜刀する キョン「炎滅斬!!!」 雷凰丸『「雷道力」』 ドオンッッ!!!! キョン「うがっ!」 ハルヒ「きゃっ!」 ぐっ・・・なんだ今のは・・?見えない力か?あれ?体が痺れて動けない・・・ ハルヒ「はああっ!」 右フェイク、中段蹴り、回し蹴り、左足フェイク、胴回し回転蹴りと技を駆使するハルヒ キョンはその間、雷凰丸の放った雷の力で一ミリたりとも体を動かす事が出来なかった ド ン !! ハルヒ「うあっ!あ、ああ・・・・」 雷凰丸「稲妻手雷拳…刀も術も使う必要性すら感じない。御前達は【弱い】」 ハルヒ「!?・・・・っ!!!」 雷凰丸「口ほどにも無い…二人纏めて終焉を迎える事に成ったな…冥府の先で己の非力さを恨むが良い。これで終わりだ…雷道神滅拳破壊心停弾!!」 キョン(こ、ここまでなのか…) 影の軍下忍「ら、雷凰丸様ー!!」 雷凰丸「…何事だ?」 影の軍下忍「信長様が・・・・」 雷凰丸「まさか…」 影の軍下忍「明智光秀謀反、大殿本能寺にて襲われる!行方は……未だ、不明…」 雷凰丸「おのれ…こんな時に…鬼道丸と森蘭丸は一体何をしておったのだ… 小僧…小娘…運が良かったな。また会おう…」 村民「ひ、引き返して行くぞ」 村民「村は守られたのか…?」 村民「やったぞー!村は守られた!!!!」 村民達『『おおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』 俺達が気付いたのは長老の家だった キョン「ここは…」 長老「わしの家じゃ。二人とも良く頑張ってくれた」 キョン「長老…すみません…あんなに簡単に負けて…」 長老「結果として村は救われた。それにあの次元の使い手がいては、あの里一番の大天才と言われた服部半蔵がいたとしてもどうなっていた事か…」 キョン「半蔵さん…一体何時帰ってくるんでしょうね・・・」 長老「…傷が癒えたら、お主達はここを出て行きなさい」 キョン「なっ!そんなことをしたら誰が村を…」 長老「…行きなさい」 キョン「長老!」 長老『『行きなさい!!』』 キョン「・・・・・長老」 長老「…伊賀の…私達の未来を、頼んだぞ」 キョン「・・・・はい!」 キョン「じゃあ長老、行ってきます」 長老「任せたぞ」 キョン「はい!」 ハルヒ「あたしも付いてるんだから大丈夫よ~心配しないで長老!」 長老「ハルヒや…お主はあくまで治療師。戦闘もいいが仲間をしっかりとサポートしてやっとくれ」 ハルヒ「もちろんよ!まっかせなさい!!」 長老「それと・・・わしの孫娘の有希じゃ。この子も旅に連れていってやっとくれ」 キョン「ちょ、長老」 長老「大丈夫じゃ。この子もお主達と同等くらいの力を持っている」 ハルヒ「そうよ。私といつも競うのよこの子。凄く優秀な『くの一』だから心配しなくていいわよ。むしろ心強いわ!!」 長門「よろしく…」 キョン「ああ、宜しく。その…長門」 長老「ほっほ。名前で呼んでもいいんじゃがの」 キョン「行ってくるぜ!」 ハルヒ「行ってきまーす!」 長門「…行ってきます」 村人『頑張れよー!!』『成長して帰ってこいよー!!』『両手に花で羨ましいぞこんちくしょー!!』 こうして俺たちは最初の城下町を目指し、旅を始めた 涼宮ハルヒの忍劇2・5
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さて、静かな時間が進んだのは、翌日の朝までだ。どうやら嵐の前の静けさって奴だったらしい。 日が昇るぐらいの時刻、前線基地の北1キロの辺りを警戒中だった小隊が数十両に上る車両に乗った敵が 南下してきていたのを発見したのだ。ハルヒと一緒にいた俺は小隊を引き連れて迎撃に向かったのだが…… 「おいドク――じゃなくて衛生兵! 負傷者だ来てくれ!」 俺は道の真ん中で鼻血を垂らしている生徒を抱えて叫ぶ。 だが、民家の路地で敵と撃ち合っていた彼には声は届かない。幸い、近くにいた別の生徒が俺の呼びかけに気がつき、 衛生兵の生徒をこっちによこさせる。 どこを撃たれたんだ!と叫ぶ彼に、俺は、 「足だ! それでもつれた拍子に頭から転んだ! 意識もなさそうだ!」 彼はわかったと言い、処置を始めようとするが、なにぶん道のど真ん中だ。そんなことを敵が許してくれるわけがない。 近くの民家の二階からシェルエット野郎がひょっこり姿を現すと、俺たちめがけて乱射を始める。 足下のアスファルトに数発が命中して道路の破片が飛び散り、俺の身体に振りかかった。 「邪魔すんな!」 俺はそいつめがけて撃ち返すと、あっさりと民家の中に引っ込んでしまう。 北山公園じゃ乱射して絶対に隠れたりしなかったくせに、ここに来てチョコマカと動くんじゃねえよ。 何はともあれ今の内に俺たちは負傷者を抱えて道路脇まで運ぶ。しかし、ここでも悠長に治療なんてやっていたら、 そこら中から銃撃を加えられるだろう。何せ、俺たちの周りに立ち並ぶ民家のどこに敵が潜んでいるのかわからないのだ。 とにかく、学校に負傷した生徒を戻すしかない。 俺は無線を持った生徒を呼びつけ、 「おいハルヒ! 負傷者だ! 数人つけてそっちに送り返すから、学校へ運んでくれ!」 『わかった! でも、さっき負傷者を満載したトラックを学校に返したばかりだから、ちょっと時間がかかるわよ!』 身近にいた二人の生徒に負傷者を担ぐように指示し、ハルヒのいる前線基地へ走らせた。 仕方がない。それでもこんなところにおいておく訳にはいかないんだからな。 負傷者を送り出した後、今度は2軒先の民家の塀の上から銃撃を受けるが、国木田が見事な腕前でそいつに弾丸を命中させる。 今じゃ、俺の小隊じゃこいつが最強の位置にいるからな。頼りにしているぞ。 と、国木田が俺の方に振り返り、 「キョン。3人減ったから結構パワーが落ちるよ。どうする?」 ここは前線基地から数百メートル北に位置する、住宅の密集地帯だ。ここを通り抜けられるともう前線基地の目の前に出る。 敵の侵攻を事前に察知した俺たちは、この住宅地帯で防御線を築こうとしていたんだが、 敵の動きが昨日とはまるで違うために苦戦続きだ。突撃バカみたいだったのが嘘のようで、 あっちの路地陰から銃撃を受けたと思えば、民家の屋根から手榴弾を投げつけたりしやがる。 しかも、ちょっと攻撃したらとっとと民家の海の中に消えてしまうのだ。 浴びせられる銃弾の量は昨日よりも遙かに少ないが、これは精神的にかなりきつい。 おまけに民家から民家へ器用にすり抜けていっているらしく、ハルヒのいる前線基地へも攻撃が加えられている。 もはや俺の防御線の意味がなくなりつつあった。 俺は国木田の指摘に、しばらく頭の脳細胞の血流を加速させて、 「どのみち、ここで防御していても犠牲が増えるばかりだな。大体ハルヒの方も攻撃を受けているんじゃ、 ここにいる意味が全くない。防御線を下げてハルヒたちの方に戻るぞ」 「賛成。その方が良いと思うよ」 国木田もいつものマイペース口調で賛成する。 俺の小隊はじりじりと南側――前線基地へ移動させ始めるが、 「敵車両だよ!」 国木田の叫び声とともに、路地から一両の軽トラックが現れる。普段その辺りを走っているようなタイプだが、 後ろの荷台には12.7mm機関銃搭載という凶悪な代物だ。そこにシェルエット野郎が3人乗り、 一人が12.7mm機関銃の火を噴かせ、他の二人はそれを援護するようにAKを撃ちまくる。 「撃ち返せ!」 俺たちは一斉に民家の塀の陰に飛び込み、車両めがけて一斉に射撃を始めた。 12.7mmの銃弾が塀に直撃するたびに、コンクリートの破片が飛び散る。 こいつが人間の肌に直撃したらどうなるのか。怪我なんて言うレベルじゃねえぞ。もはや人体破裂といった方が良い。 もう3度それを目撃する羽目になったが、絶対に慣れることはないと断言する。 しばらく銃撃戦が続くが、一人の生徒が撃ちまくっていた5.56mm機関銃MINIMIが12,7mm機関銃を乱射していた シェルエットマンに直撃。一番の脅威が消滅したと言うことで、俺たちは前に出て残り二人も射殺した。 だが、肝心の軽トラックはとっとと逃げ出した。あれだけ銃弾を撃ち込んでぼろぼろだってのにまだ動けるとは。 さすがは日本製とでも言っておこう。 敵が去ったのを確認すると、俺たちはまた前線基地へ向けて移動を開始した。 ◇◇◇◇ 「キョン! こっちよこっち!」 前線基地前にたどり着くと、ハルヒが手を振っているのが目に入る。しかし、隣接している住宅地帯には すでに敵が潜んでいるらしく、うかつに飛び出せば狙い撃ちされかねない状態だ。 案の定、俺たちの真上に位置する民家の窓から敵が飛び出してきて―― 「やばい!」 てっきりいつものようにAKで銃撃してくるかと思いきや、シェルエット野郎の手にはRPG7が握られていた。 真上からあれを撃ち込まれれば、ひとたまりもない! 俺は無我夢中でM16を撃ちまくる。放った銃弾がどこかに当たったのか、発射寸前に手元が狂い 俺たちとはあさっての方向の民家の壁に直撃した。だが、やはりぶっ放した野郎はとっとと民家の中に引っ込んでしまう。 「キョン! 後ろから敵車両2! 近づいてくるよ!」 国木田の声で振り返ると、また武装軽トラックが背後から接近中だ。もちろん、12.7mm機関銃の銃口が向けられている。 ここからじゃ、狙い撃ちにされる! ――その瞬間、バタバタという轟音とともに、俺たちの頭上に一機のヘリコプターが出現した。 「ようやく来たか!」 俺の歓喜の声と同時に、UH-1からミニガンの攻撃が始まる。まず、俺たちに接近中だった車両2つが吹き飛び、 今度は住宅地帯の屋根に向かって撃ちまくった。俺たちの頭上を飛ぶたびに、ミニガンの薬莢が雨あられと降りかかり、 指先に当たったときは思わず「アチイ!」と叫んでしまう。 しばらく掃射が続いたが、やがてそれも収まり前線基地の上空あたりでホバリングを始める。 と、無線機を持った生徒から無線を渡された。古泉からの連絡らしい。 『やあ、どうも。敵は大体つぶしましたから、今の内に移動してください』 「恩に着るぜ。助かった」 古泉は今小隊の指揮官からはずれて、UH-1のパイロットなんてやっていたりする。何でも本人曰く、 (何の訓練も免許もなくヘリの操縦ができるんですよ? せっかくだから操縦してみたいと思いませんか?) と、いつものさわやか顔でUH-1に乗り込んだ。とはいっても、学校の校庭に置かれていたものは輸送用らしく、 武装が一切ついていなかったので、学校のどこからか持ってきたミニガンを両脇キャビンに装着してあり、 それをヘリに乗った生徒が撃ちまくっている。なんだかんだで器用な野郎だ。 まあ、今の状況を仕組んだ奴から頭の中にねじ込まれた知識だろうが。 しかし、あの学校は4次元ポケットか何かか? 昨日はカレーと米が出てきて長門カレーができたが、今度はミニガンかよ。 「よし、敵の攻撃が収まっている内に戻るぞ」 俺たちは一気に前線基地の建物内までに戻る。そこにハルヒが駆け寄ってきて、 「キョン、向こうの様子はどうだった?」 「ああ、すっかり民家に敵が入りこんじまっているな。あっちこっちで敵が飛び出してくるんで まるでモグラ叩きだ。キリがねぇ」 「こっちもさっきから同じ状態よ。正面の民家から敵が出ては引っ込んでの繰り返し。むっかつくわ! もっと潔く突撃してきなさいよ!」 「俺に言われても困る」 そんなやりとりをしている間に、またガガガガとAKの銃声音が鳴り響き始めた、 だが、てっきり前線基地に向けた銃撃と思いきや、こっちには一発も飛んできていない。 代わりに前線基地上空を旋回していたUH-1があわてたように高度を上げ始める。 どうやら、ヘリが攻撃を受けているようだ。 ハルヒは無線機を通信兵から受け取ると、 「古泉くん! 大丈夫!?」 『ええなんとか。あまり高度は下げない方が良いですね。ちょっと驚きました』 「無理しないで。有希の砲撃が使えない以上、古泉くんのヘリが頼みなんだから」 『わかりました』 言い忘れていたが、現在長門の砲撃は自粛中だ。敵車両部隊の南下を確認した時点で、 それを阻止すべくありったけの砲弾を南下ルートの道路に撃ち込んだんだが、 調子に乗ってやりすぎたため、砲弾の残りが見えつつあるようになってしまったからだ。 こいつに関してはハルヒの指示とはいえ、俺も砲弾が無限にあると勘違いしていたことを反省すべきだろう。 しかし、ミニガンとカレーが出てくるなら、砲弾も一時間ごとに2倍に分裂するとかサービスしてくれりゃいいのに。 と、古泉との通信を終えたハルヒが俺のヘルメットをぽかぽか叩きつつ、 「なにぼさっとしているのよ、キョン! 敵がどっかに隠れているんだから、怪しいものに向かってとにかく撃ちまくるのよ!」 「それをやったから砲弾が尽きかけているんだろうが!」 そんなことをしている間に、前線基地正面の民家の窓からまた影野郎が出現だ。 しかも、狭い窓から3人が身を乗り出し、全員RPG7を構えて一斉発射だ。 「RPG! 隠れて!」 ハルヒの声が飛ぶと同時に、俺たちは物陰に隠れる、一発は前線基地前の道路に、2発はそれぞれ建物の壁に直撃する。 「みんな無事!? 怪我はない!?」 ハルヒの確認の声に、建物内の生徒たちが一斉に返事をする。どうやら、けが人はいないようだ。 俺がほっと無でをなで下ろしていると、またもやハルヒからの鉄拳パンチがヘルメットを揺るがし、 「だーかーらー! ぼさっとしていないでさっき出てきた奴に反撃しなさいよ!」 「さっきの仲間にかける優しさの1割で良いから、俺にもかけてくれよ」 ひどい扱いだぞ、まったく。 とはいっても腐っている場合ではない。第2射を撃とうと、同じ窓から出てきた敵めがけて撃ちまくる。 何とか、一発ぐらい当たったらしくいつものように敵がはじけ飛んで消滅した。主を失ったRPG7は、 そのまま窓から地面に落ちる。 「よくやったわキョン! ナイスショット! 学校に帰ったらみくるちゃんを――違う違う! ビールをおごってあげるわ!」 「未成年者に酒を勧めるなよ!」 こんなやりとりをしていると、つい俺の頬がゆるんでしまうのがわかる。 なんだかんだでハルヒの威勢の良い声が今はとても気持ちよく感じているからだ。 「また来た!」 今度は路地から2人の敵がそこら中に向けてAKを乱射し始める。それに対して、ハルヒは持っていたM14を構え、 2発発射。当然のようにシェルエット野郎2人に命中して飛散させる。大した奴だ。 「このくらいできないと指揮官は務まらないわ! 当然よ当然!」 得意げに笑うハルヒ。昨日ほど落ち込んではいないようだな。 ちなみに、ハルヒが持っているのは他の生徒が持っているM16A2ではなく、 どこからか引っ張り出してきたM14――しかも狙撃用にカスタマイズされたものだとか。 昨日北山公園に行ったときはM16A2だったが、途中でMINIMIに持ち替えて乱射していたらしい。 ところがこれがさっぱり敵に命中しないものだから、今では一発一発確実に命中させる方に転向している。 「下手な鉄砲も数撃ては当たる!なんて言うけどさ、あれって絶対に嘘よね。 昨日、あれだけ撃ちまくっても全然命中しなかったし。きっと弾を売っている商人が流したデマよ。 そういう連中にとってはいっぱい撃ってくれた方がどんどん売れて大もうけって寸法よ、きっと!」 根本的にお前の使い方が間違っているんだよ。とまあ指摘してやりたかったが、胸の内にしまう。 何でかというと、今度は前線基地前の民家の屋根上に10人くらいの敵が出現して、 こっちに銃撃を始めやがったからだ。 こっちも負けずに一斉射撃で反撃を開始するが、上からと下からでは差があるのは当然だ。 敵を一人やるまでにこっちは二人は負傷するという不利な状態だ。 「だったら、さらに上から撃てばいいのよ! 古泉くん! やっちゃってちょうだい!」 『了解しました』 ハルヒ指令の指示通り、古泉ヘリのミニガン掃射が始まる。もう敵どころか民家の屋根ごと吹き飛ばしている威力を見ると、 頼もしいような恐ろしいような。 「敵車両がまた来たよ、キョン! 三両も!」 「しつけぇな!」 東側を見ていた国木田から声の声に、俺は思わず出る愚痴を吐き捨てながら敵の迎撃に向かう。 先頭に一両で背後に2両が併走していた。当然どれも12.7mm機関銃付きだ。 とにかく、先頭の車両の連中をつぶそうと銃を構えるが、突然、背後の車両に乗っていた数人が RPG7を手に立ち上がった。前の車両はおとりかよ! やられた! だが、向こうが発射する前に敵の先頭車両が吹っ飛ぶ。さらに、後続の一両も同じように爆発で破壊され、 残った一両だけはRPG7を発射することなく、路地に逃げ込んでいった。 「へへん、やったわ! 作戦通りね!」 ハルヒは笑顔を浮かべながら、周りの生徒たちに向けて親指を立てる。 どうやらこっちも迎撃のために携行型のロケット弾あたりをあらかじめ用意していたらしい。 放たれたのは俺たちの隣の建物らしいので、具体的はわからないが。 やがて、さっき逃げ出した最後の一両も古泉ヘリがとどめを刺す。この時点で敵からの攻撃は完全に収まっていた。 「……収まったのか?」 「さあ、どうかな……?」 さっきから出ては引っ込んでの繰り返しだからな、俺とハルヒもすっかり疑心暗鬼になっちまっている。 そのまま、1時間が過ぎたが結局なにも起きず。その間、神経張りつめっぱなしで銃を構えていたもんだから、 いい加減疲れたのかハルヒが座り込んで、 「ちょっと一休みするわ。あ、キョンはそのまま見張ってなさい」 鬼軍曹かお前は。そのうち、後ろから撃たれるぞ。 「あとで交代してあげるから。もうちょっとがんばりなさい。SOS団の一員でしょ」 「……SOS団であるかどうかは全く関係ないんだが」 結局、しぶしぶと俺は前方の民家に向けて警戒を続ける。しかし、敵は何でいきなり攻撃をやめたんだ? このまま、延々と攻撃を続ければ俺たちもどんどん消耗していくだけなんだが。 「バッカバカバカね。こんなのゲリラ戦の基本じゃん。いつ攻撃を受けるかわからないあたしたちは こうやってぴりぴりしていなきゃならないけど、向こうは数人こっちを見張っているだけで、 他はのんびり休息中ってわけよ。きっとホーチミンもそう教えていたに違いないわ」 わかるようなわからんような……そもそも常識はずれな連中だから、休息も必要ないだろうしな。 『涼宮さん、僕の方はどうしましょうか?』 無線で語りかけてきたのは古泉だ。そういや、さっきから延々と前線基地上空を飛んだままだったな。 ハルヒはしばらく考えてから、 「とりあえず、学校に戻って。ただし、すぐに飛べるようにしておいてね」 『了解しました』 そう言ってUH-1が学校に帰還する。一瞬、帰ったとたんに攻撃されるんじゃないかと緊張が走ったが、 敵は動こうとはしなかった。 ◇◇◇◇ それから数時間状況は動かず、俺たちは神経を張りつめながらひたすら警戒するだけの時間が続いた。 もう正午をすぎようとしている。そういや、このあり得ない世界に放り込まれてからようやく1日半か。 一年ぐらいいるようなくらいの疲労感だが。 この一応平穏な時間の間に、前線基地の南側に北高からトラック輸送部隊が来て弾薬やら食料を置いていった。 死者や負傷者と入れ替える予備兵も到着する。 ハルヒはせっせと指示を出していたが、戦死した生徒や重傷者を乗せて帰って行くトラックを見送ると、 おもむろにメモを取り出してなにやら書き込み始めた。 「……なにやってんだ?」 「…………」 俺の問いかけにも反応せずハルヒは一目散にボールペンを走らせ続ける。それも普段にないような真剣な目つきでだ。 ちらっとのぞいた限りでは名前が延々と列挙されていた。これってまさか…… 「……ふう」 ハルヒは全部書き終えたのか、パタムとメモ帳を閉じた。 そこでようやくハルヒをのぞき込むように見ていた俺に気がついたのか、 「なっなによ! なんか用!?」 あからさまにびびったような声で抗議する。気がついたら俺とハルヒの顔の距離が30センチ未満だった。 俺もあわてて、ハルヒとの距離を取ると、 「いや……なにやってんだと聞いていたんだが」 さっきと同じことを聞く。するとハルヒはメモ帳をぴらぴらさせながら、 「死亡した生徒と負傷した生徒の名前を書いていたのよ。指揮官たるものそう言うのは逐一把握しておくもんでしょ? って、なによその意外そうな目つきは!」 「何にも言ってねえだろうが」 変な疑いをかけるなよ。俺はただ単にハルヒがしっかりしているんだなと感心しただけであってだな―― と、ハルヒは俺の抗議を無視して目をそらすと、 「でも、そんな精神論だけの話じゃないわ。昨日と併せて、死者はすでに70人を越えているし、 負傷者も50人に達したのよ。しかも、ほとんど戦えるような状態じゃない生徒ばかり。 やっと1日半だけど、すでに生徒の半数近くが戦闘不能になっているじゃ、この先どうすればいいのか……」 そうあからさまに不安げな表情を浮かべた。ハルヒの言うとおり、確かに人員不足は否めない。 前線基地には常に50~80人は詰めているので、相対的に北高の守備隊や長門の砲撃隊、 さらに朝比奈さんの輸送や医療のチームがどんどん削減されている状態だ。 後方支援を削って前線を守っているんだからほとんど共食いに等しい。 大体、敵とこっちじゃ条件があまりにも偏りすぎているってんだ。相手は戦車や爆撃機を使ってこないとはいえ、 シェルエット野郎は無限に出現してくるし、武装トラックもどこからともなく現れやがる。 あまりにフェアじゃねえ。一方的すぎる。もてあそばれている気分だ。 だがハルヒは首を振りながら、 「敵があたしたちの要望なんて聞いてくれる訳がないじゃない。あたしがうまくやっていないだけの話よ。 もっときちんとみんなを守っていれば……」 そう肩を落とすハルヒ。俺は何とか励ます言葉を考えるが、どうしてもいい励ましが思いつかない。 こんな俺に果てしなく憂鬱だ。 「あーやめやめ! お腹がすいているからこんな暗いことばっかり考えるんだわ。ご飯食べてくる!」 ハルヒは2・3回頭を振ってから、先ほど届いたばかりの缶詰の山をあさりだした。 まあ、確かに腹が減ってはなんとやらだしな。俺も食うか。 と、このタイミングで古泉からの連絡だ。 「何の用だ?」 『やあどうも。そちらはどうですか?』 「今飯を食おうとして、寸止めを食らったせいで大変不機嫌な気分だ」 古泉は無線機越しに苦笑しながら、 『それは失礼しました。なら後にしましょうか?』 俺はちらりと缶詰にがっつくハルヒを確認してから、 「いや、せっかくだから今の内に話せることは話しておこうか。またいつ敵が襲ってくるかわからんしな」 俺は飯を食うのはあきらめてハルヒの見えない位置に移動する。 「とりあえず、散々お前の援護には助けられたからな、礼を言っておくぞ」 『これはどうも。あなたから感謝の言葉をいただけるとは光栄ですね。今までの奉仕が実ったというものです』 気色悪い表現を使うな。 『しかし、ミニガンの威力はすごいですね。辺り一面を吹き飛ばす威力にはやっているこっちがぞっとしますよ。 しかし、実際に撃っている人は気分爽快らしく、フゥハハハーハァーとか笑いながらやっていますが』 「……その勢いで俺たちまで撃たないように注意しておいてくれ」 そんな笑い方をされると動くものすべてに撃ちまくるようになっちまいそうだ。 古泉は俺の言葉をジョークと受け取ったのか、苦笑しながら、 『それはさておき、そちらの状況はどうですか?』 「めっきり敵の攻撃が収まっているな。ただ大方その辺りの民家には敵が潜んでいそうだ。 こっちから仕掛けたりしたら返り討ちに遭うだろうよ。癪だが、今はここで粘るしかない」 『賢明な判断だと思います。今は現状維持に努めた方が良いでしょう。何せ敵はこっちが消耗するのを狙っているようですから』 ――ハルヒが缶詰を生徒たちに配っているのが目に入る―― 「学校の方はどうなんだ? いつ攻撃を仕掛けられてもおかしくない状況だが」 『北高への攻撃はまだないと思いますよ。少なくともあなたたち――涼宮さんが学校への籠城を指示するまではですが』 「そうか? 俺たちの消耗を狙うなら、学校を攻撃して武器弾薬を使えなくした方が効果があると思うんだが」 『お忘れですか? これを仕組んだ者は涼宮さんにできるだけの苦痛を与えることです。 通常の軍事作戦なら当然学校制圧を目指すでしょう。しかし、今学校を制圧されれば僕たちは降伏する以外の道はありません。 それでは意味がないんです。涼宮さんをほどほどに絶望させつつも、世界を改変するまでには絶望させない。 じりじりと追いつめていっているんです』 「……俺たちをこんなところに放り込んだ奴は相当陰険な野郎って事だな」 俺はいらつくながら頭をかく。 『全く同感です。しかし、学校制圧は当然この後のイベントとして考えているでしょうね。 ただ、今は前線基地で涼宮さんの精神の消耗に務めるはずです』 「イベントなんて言葉使うなよ。まるでこの戦争がただの催しみたいに聞こえるじゃねえか」 『戦争? あなたはこれが戦争だと思っているんですか?』 俺は珍しく語気を詰め読める古泉に少し驚いた。そのまま続ける。 『これは戦争なんて言える代物ではありません。戦争にはそれなりの理由があります。 民族とか資源とか国益とか、ある時は意地やプライドなどもあります。 しかし、それを実行するには大変な労力が必要な上、多くの人々の支持が必要です。 でも、今我々がいる世界はどれも当てはまりません。戦う理由もないというのに、 無理矢理知識とやる気を頭の中にねじ込まれ戦わされている。さらにその目的が一人の少女に精神的苦痛を与えるためだけ。 こんなものは戦争なんて呼べません。頭のおかしい者が仕組んだゲームにすぎないと思っています。 だからこそ、僕は腹立たしい。こんなばかげたゲームのためにこれだけ多くの人命を費やしているんですから。 成り行きで転校してきたとはいえ、9組にはそれなりに親しい人もいました。 ですが、その大半がすでに戦死しているんです。堪えるなんて言うものではありません』 口調だけ聞いても古泉のテンションがあがっていることがはっきりとわかった。あの全く表情を変えない古泉が。 一体、無線の向こう側ではどんな顔をしているんだろう。ふと、そんな考えが頭を過ぎる。 しばらく、古泉は黙りこくってしまうが、やがて大きくため息をつき、 『……すみません。こんな事を言うつもりではありませんでした。僕自身も相当追いつめられているようですね。 それが敵の狙いだというのに』 「構わねえよ。むしろ本音が聞けてほっとしているくらいだ。言葉は違ったが俺もお前と同じ考えさ」 古泉がこれだけ感情をあらわにするなんてことは今までに一度もなかった。 古泉の言うとおり、敵の狙いはそこにあるのだろう。だからこそ、たまにはガス抜きも必要だ。 俺は話題を変えて、 「で、長門からは何か進展があったとかいう話はないのか?」 『長門さんは喜緑さんとずっと学校の教室でこもりっきりです。僕らには想像を絶するような作業を行っているのかと』 そうか。長門はまだ突破口を見つけられていない。ならしばらくはこれが続くと見て良いだろう。 「そろそろ戻るぞ。あまり長話をしているとハルヒにどやされるからな」 『わかりました。では涼宮さんをよろしくお願いします。彼女も相当堪えているはずですから』 そう言い残して無線を閉じた。 ◇◇◇◇ 「何やってたのよ。せっかくのご飯がなくなっちゃうわよ」 まだがつがつ缶詰の肉を食いあさっているハルヒ。なんつー食欲だ。どんな胃袋しているんだ? 「食べられるときに食べておかないとね。ほらキョンも食べなさい。食欲がないなんて許さないわよ。 無理にでもカロリーを蓄えておかないと後が厳しくなるんだからね」 ハルヒから放り投げられた缶詰を受け取ると、俺もそれを食い始めた。 冷たくて大した味もしないのにやたらと旨く感じる。 ハルヒは細目で俺の方をにらみつけ、 「で、誰と連絡していたのよ。有希? みくるちゃん?」 「古泉だよ。というか何であいつを選択肢からはずすんだ」 「へー古泉くんとね……へーえー」 なんだその疑惑の目つきは。言っておくが俺から連絡した訳じゃない。それに俺はれっきとしたノーマルだぞ。 朝比奈さんを見てほんわか気分になれるほどにな。 「はいはい、わかったわよ。早く食べちゃいなさい」 しかめっ面なハルヒだが、そんな事で言われるとお袋を思い出すからやめてくれ。 で、そのまましばらくむしゃむしゃと食べていた俺たちだが、ふとハルヒが手を止める。 「ん……どうした?」 俺の問いかけにも答えずにハルヒはじっと怖い目つきで―― 次の瞬間、横に置いてあったM14をつかむと、前線基地前方の民家に向かって構える。 俺もあわててそれに続いてM16を取ったときにはすでにハルヒは発砲していた。 ようやく銃を構え終えたときには、シェルエット野郎がはじけ、手にしていたRPG7が地面に落ちる光景だった。 何で気がついたんだ? 「野生のカンってヤツよ! でも違うわ! あれじゃない! あと、古泉くんにヘリで援護してもらうように言って!」 訳のわからんことをわめくハルヒ。だが、同時に前方の民家の窓という窓から敵が飛び出して、 AKの乱射をはじめた。戦闘再開だ! まったく! 俺はひたすら窓めがけて撃ちまくったが、ハルヒはじっと構えたまま発砲しない。一体何を待っているんだ? と思ったら、民家の木製の壁を突き破って一台の武装トラックが出現した。さらにハルヒが待ってましたと M14で狙撃するが…… 「ミスっちゃった!」 素っ頓狂な声を上げる。ハルヒの放った銃弾は、フロントガラスをぶち破り武装トラックに乗っていた運転手と 荷台に載っていたAKをもったシェルエット野郎一人をつぶしたが、肝心の12.7mm機関銃の射手は撃ち漏らしたからだ。 壁からド派手に登場したトラックは今までとちょっと違った。器用にトラックの荷台の両脇に 鉄板のようなものが張り巡らせサイドからの銃撃を受けないようにされていた。 前後から攻撃するしかないが、後ろは論外、なら前面ならってそりゃ12,7mmの銃口を向けられているって事だろうが! ハルヒのミスったっていうのは、12.7mm射手を一番最初に仕留められなかったことを言っているのだろう。 ものすごい勢いで乱射され、こっちは建物の陰に隠れて身動きすらとれねえ。 こんなんじゃ、そのうち誰かに当たるぞ……と思った瞬間、移動しようとしていた生徒の脇腹を直撃――いや貫通した。 肉がさけるいやな音とともに、生徒の背後に血しぶきがぶちまけられる。くそ、この調子じゃ古泉が来る前に死者多数だ。 ハルヒは必死に地面にはいつくばりながら、撃たれた生徒に近づき、 「暴れないで! 傷口が広がるからじっとしてなさい! 衛生兵! 早く来て!」 何が起きたのかわからない状態になっている負傷した生徒を必死になだめる。 ちくしょう、このままじゃただ的にされるだけじゃねえか! ハルヒはやっていた衛生兵に負傷者を任せると俺の元に戻ってきて、 「このままじゃらちがあかないわ! とにかく、向こうの弾に当たらないように、牽制するの! あの車両のヤツの弾切れが狙い時だわ! あたしがきっちりと仕留めるから援護して!」 「わかった! てか、さっき使ったロケット弾みたいな奴はないのかよ! あれで吹っ飛ばした方が早いだろ! ないのか!?」 「さっきので打ち止めよ! みくるちゃんたちに探させているけどまだ見つからないって!」 「肝心なときに役にたたねえ4次元ポケット学校だな。わかった援護する!」 俺はハルヒとの意識あわせを終えると、近くにいた国木田を呼びつけ、 「あの野郎が弾切れを起こさせるように、牽制するぞ! 援護してくれ!」 「了解! 任せて!」 俺と国木田は交互に物陰から出ては、武装トラックに向けて発砲した。最初は狙い撃ってやろうかと思ったが、 目があったとたんに射殺されるシーンが脳裏に過ぎったので、とにかく何でも良いから乱射しまくった。 数分間この撃ち合いが続いたが、ようやく向こうが弾切れだ。給弾をはじめようとしたタイミングで、 ハルヒが身を乗り出して狙撃しようとしたが―― 「うへっ!?」 ハルヒの素っ頓狂な声が上がる。俺もあげた。当然だ。突然あり得ない動きで荷台左側の鉄板がぐるっと回って、 12.7mmの射手を覆い隠したからだ。おいレフリー! 今のはどう見ても反則だろ! 「あたしが出て仕留める!」 俺が考えるよりも早くハルヒがM14を片手に飛び出した。おいバカやめろハルヒ!と口に出す暇もない。 ハルヒは鉄板がなくなった左側から回り込み、数発発射して12.7mmの射手を仕留めた。 早く戻ってこい――げ! 「ハルヒ! 東側からRPGだ! 伏せろ!」 いつのまにやら発射されていたRPGがハルヒめがけて飛んできた。ハルヒは飛び込むように地面に伏せる。 その瞬間、ハルヒのすぐ手前の地面にRPGが直撃。衝撃でハルヒの身体が俺たちの方に転がってきた。 俺は全身から血の気が引く音をはっきりと聞いてしまう。 「ハルヒっ!」 もう頭よりも身体が先に動いた、銃弾が飛び交っているのにも構わず、俺は路上に飛び出して 倒れて動かないハルヒを物陰に引きずり込もうとする。だが、敵もそれを阻止すべく、路地の陰、民家の屋根や窓から 俺たちに向け銃撃を開始する。しかし、ようやく到着した古泉のUH-1がミニガンの掃射を開始し、 何とか被弾せずにハルヒを物陰に引きずり込んだ。 「おおい! ハルヒ! しっかりしろよ! 目を開けろ!」 俺は自分でもわかるほどに泣き出しそうな声でハルヒに呼びかける。すると、ハルヒは突然ぱっちりと目を開けて、 「あーびっくりした!」 驚きの声を上げた。俺は安堵のあまり全身の力が抜け、 「よかった……無事なんだな。心配させやがって!」 「なに!? さっきから頭の中で除夜の鐘がぐわんぐわん鳴り響いて全然聞こえないんだけど! もっとはっきり大声で言いなさいよ! 聞こえないじゃない!」 至近距離で爆音を浴びたせいだろうか、どうやら耳がおかしくなっているらしい。 俺はまた銃を握ると、 「そんだけ元気があれば十分だって言ったんだよ!」 「やっと聞こえてきた――ってあったりまえでしょ!」 怒鳴り返すハルヒを見る限り、全然無事だなこりゃ。 俺たちは国木田のいた位置まで戻り、また敵に向けて応戦を再開した。しかし、俺たちのちまちました援護なんかより、 古泉のミニガンの方が手っ取り早い。あっという間に民家を破壊しつくして敵を黙らせる。 「よっし、何とか押さえられそうね! 古泉くん様々だわ! これが終わったらSOS団団長代理にまで昇格させようっと」 こんな時までSOS団のことを考えてられるとは大した精神力だ。いや、ひょっとしたら今のハルヒにとって この非常識世界で唯一現実とつなぎあわせを求めているのがSOS団なのかもしれないが。 だが、そんな俺たちの安心感も、前線基地とされるサンハイツの最西端の建物が吹っ飛ばされたと同時に消滅する。 かつてない大爆発で、大地震が起こったんじゃないかと思うほどに地面と建物を揺るがした。 「な、なによなになに!?」 驚きのあまり路上に飛び出しそうになるハルヒを俺が止める。しかし、何だってんだ今の爆発は! 今までの比じゃねえぞ! 古泉のUH-1が状況を確認しに西側に移動する。しばらくして無線連絡が入り、 『まずいですね。原因はわかりませんが西側が木っ端みじんです。かなりの負傷者も出ています。早く救出を』 手短に古泉からの報告を終える。俺はハルヒの元に駆け寄り、 「ハルヒ。とりあえず、俺が西側に行って防御に入る。何人か借りていくぞ、いいな?」 「…………」 ハルヒはしばらく口をへの字にしたまま黙って俺をにらみつけていたが、やがてそっぽを向いて、 「……わ、わかったわよ。でも無理はしないでよ! いいわね!」 ハルヒの許可が下りたので、周辺にいた生徒9名+国木田を集める。 「よし、今から西側に移動するぞ。前線基地の裏側を通ってな」 「了解」 国木田と他生徒の同意の下、俺たちは西側へ移動を開始した。 ◇◇◇◇ 『気をつけてください。北側に広がる空き地には敵が多数潜んでいるようです』 「よし、すまんが空き地の敵を掃討してくれ。それが終わり次第、負傷者の救出に入る」 『わかりました。任せてください』 俺たちは今前線基地の西側にいる。ただし、正面――北側には敵方数潜んでいるので、 前線基地の裏である南側で待機中だ。 最西端の建物は木っ端みじんといっても良いほどに崩れていた。辺りにはここを守っていた生徒の破片――そうだ、 人間の破片ががれきに混じって散らばっている。あまりの凄惨さに吐き気を催しそうになった。 ドルルルルルと耳につく発射音なのか回転音なのかわからない騒音が辺りに響きはじめる。 古泉のミニガンが炸裂をはじめたようだ。 「よし、俺たちも表側に出るぞ」 俺の合図とともに、粉砕されたがれきを乗り越えつつ建物の残骸に身を潜める。 ハルヒのいた前線基地の中間付近とは違い、西側の正面には民家はなく空き地が広がっている。 起伏がそこそこあるために、その陰に敵が潜んでいるようだが、現在古泉がそれを掃討中だ。 起伏に隠れても真上からではいくら隠れても無駄だからな。 俺が残骸の陰から外をのぞこうとしたとき――目に入ったのは、空き地と民家の壁にぴたりと隠れるようにいた 武装トラックだ! しかも、こっちが来るのを待ちかまえていたように12.7mm機関銃を向けていやがる! とっさに頭を引いたとたん、ドドドと12.7mmの乱射が始まった。民家の残骸をさらに細かく粉砕していく。 さらに間髪入れずにRPG7が発射され、残っていた壁の一部が吹っ飛ばされた。 幸いそこには味方の生徒はいなかったが。 「手榴弾だ! 国木田頼む!」 「任せて!」 国木田が思いっきり腕を振って武装トラックに手榴弾を投げつけ、俺もそれに合わせる。 距離が遠いため武装トラックまでは届かなかったが、近距離での爆発にとまどったのか、 一瞬12.7mmの銃口があさっての方に向いた。 「撃て撃て!」 俺の指示で、一斉射撃による反撃開始だ。M16やら5.56mm機関銃MINIMIが一斉に火を噴き、 武装トラックを穴だらけにする。しかし、肝心の12.7mmの射手には当たらずまた銃口がこっちに向けられようとした瞬間、 トラックごと粉砕された。古泉ヘリのミニガンが炸裂したのだ。 『すみません。死角になっていたので気がつきませんでした』 「頼むぜ。お前だけが頼りなんだからな」 古泉に無線で釘を刺すと、俺たちはそこら中に転がっている負傷者の救助を始めた。 しかし、あれだけミニガンで掃射したってのに、まだ空き地からちょろちょろと銃撃してくる奴がいやがるおかげで、 容易には行かない。 「国木田! あとそこの4人! 物陰に隠れながら、俺たちを援護しろ! 敵が見えたら遠慮なく撃ち返せ! 他は負傷者を救助するんだ!」 俺たち救助チームは路上にかけだして、負傷者の回収を開始する。しかし、人間としての原型をとどめている方が 少ない状態だ。しかし、それでも虫の息ながらまだ生存している生徒も何人かいた。 俺はそいつらを担ぎ上げて、民家の残骸の陰に引き込む。 そんな調子で息のある生徒を5人ほど救出できた――いや、まだ戦場のど真ん中だから救出という表現はおかしいか。 古泉ヘリがまたミニガンで掃射を開始した。見ると、空き地の向こう側から数十人の敵が接近しつつある。 それを迎え撃っているようだが…… 「キョンあれ見て!」 国木田が俺の肩を叩き、近くの民家の屋根の上を指さす。そこには3人のシェルエット野郎が UH-1に向けてRPGを構えるとしていた。あれでヘリを攻撃する気か!? しかも古泉のヘリはそいつらにちょうど背を向けるような状態になっていて気がついてねえ! 俺は奴らに向けて銃撃を加えるように指示する一方、古泉に無線をつなぐ。 「おい古泉! 東側の民家の上でお前を狙っている奴がいるぞ!」 『む。それはまずいですね……』 こっちから必死に撃ちまくって阻止しようとするものの、距離が遠いために当たりそうにもない。 もう弾頭を空に向けて今にも発射しそうだ。どうする? 古泉に逃げろと言うか? いや、もう間に合わない…… 「古泉! そこから90度左に旋回してミニガンで吹っ飛ばせ!」 『……そうしましょうか!』 古泉はくるっと機体を90度旋回させる。ちょうどミニガンの目の前に敵があわれる形になり、 一気に掃射を開始する。即座にシェルエット野郎3人を吹っ飛ばしたが、時すでに遅し。 三発のRPGが古泉ヘリに向かって発射された――が、奇跡的にといっても良いだろう。 かろうじて機体を外れてどこかに飛んでいった。 「ぎりぎりかよ……あれを連発されるとまずいんじゃないか?」 『ええ、これでは掃射を行うにも高度をあげる必要がありますね。当然、命中率も下がるので、 無駄弾が増えそうですよ』 古泉はそう言い終えると、UH-1の高度をぐっと上げていった。それで勢いづいたのか、 敵がまた空き地にどんどん入り込んで来やがった。 しばらく、空き地側の敵と俺たちで銃撃戦が続いたが、突然背後でまた大爆発の轟音が鳴り響く。 って、何で背後から聞こえてるんだ!? まさか、また北高へのロケット弾とかでの直接攻撃か!? 俺は無線で学校に連絡を取ろうとするが、向こうはパニックに出もなっているのか、誰も応答しようとしない。 迫る敵に反撃しつつ必死に呼びかけを続けたが、やがて無線機から聞き覚えのある声が流れてきた。 『聞こえる?』 「長門か!? 何かあったのか!?」 『……学校と前線基地をつないでいた橋が爆破された。現在、そっちとは断絶状態』 俺は長門からの報告に絶句する。北高と前線基地の間には一本の小さな川が流れている。 歩いてわたるにはどうって事ないものだが、荷物を持って移動するには一苦労するだろうし、 溝のような構造になっているため、トラックでわたるのは不可能だ。それを唯一つないでいた橋が爆破された。つまり―― 『こちらから物資などの補給を送るのはほぼ無理になった。このままではそちらの弾薬が尽きるのを待つだけ』 「…………」 途方に暮れてしまう。他にルートはないのか? 光陽園学院前に川を渡る橋はあるが、 敵もわざわざ橋を爆破したぐらいだ。そっちからも通れないように何らかの手を打っているだろう。 どうすりゃいい? どうすりゃ―― 『何とかしたい』 そう言い放ったのは長門だ。いつもなら、頼もしい言葉に聞こえるが今の状況じゃ…… 『何とかする。約束する』 長門はそれだけ言い残すと無線を終了させた。ちっ、何だかわからんが、今は長門に期待するしかないのか!? また空き地側からの銃撃が活発になる。俺も反撃に加わって近づく敵を片っ端から銃撃した。 だが、無駄弾は撃てない。何しろ今手持ちの弾がなくなれば、もう何もできなくなってしまうからだ。 敵が増えてきたタイミングで、古泉ヘリからの掃射が始まる。空から学校に戻れるUH-1ならいくら撃っても 補給に戻れるからな。ガンガン撃ち込んでくれ! 古泉ヘリの掃射の間、俺は周りの生徒に発砲を控えるように指示する。とにかく節約だ。 さっきまで遠慮なく撃ちまくっていたのが懐かしいぜ。 この間に国木田が近づいてきて、 「キョン。このままだといずれはやられるのが保証済みだよ」 「わかっているが……だからとって負傷者を見捨てるわけにもいかねえだろ」 俺はちらりと振り返ると、あの大爆発で虫の息にされた生徒たちの方を見る。 呼吸を続けているところを見るとまだまだ生きながらえるはずだ。何としても助けてやりたい。 だがどうする? どうすればいい? 「とにかく徹底抗戦。後は何かが起きるのを待つ。それで良いんじゃない?」 いつものマイペース口調で国木田が言う。全くのんきな奴だ。だが、それしかないか。 ◇◇◇◇ 最西端の防御に入ってから1時間。俺たちはえんえんと北側の空き地から接近してくる敵を撃ち続けた。 その間、何も起きていない。長門からの連絡もない。たまに古泉ヘリが掃射で支援してくれるだけだ。 この間に生徒二人が射殺されていた。残りは9人。だんだん厳しくなりつつある。 「くそ、いつまでこれを続けてりゃいいだよ……」 「指揮官が弱音を吐くと周りに伝染するよ」 国木田はこんな状況でも自分のペースを崩さずに敵めがけて撃ち続けている。 だが、時間が過ぎたことによって一つの問題も発生していた。 『ちょっと悪い知らせです』 古泉から深刻な報告が来やがった。大体想像はつくが。 『ミニガンの残弾が10%を切りました。もう少ししたら学校に補給に戻らなければなりません』 今の状態では古泉の支援がなくなると言うことは、しゃれにならん。 俺は周りの生徒たちに残弾の報告をさせると、マガジン一つ分だけとか、今装填している分だけなんて返ってきているほどだ。 ヘリが去ったとたんに敵は一斉攻撃を仕掛けてくるだろうし、俺たちにそれを迎撃するだけの弾もない。 しかし、このまま上空を飛ばしているだけでは全く意味がないのだ。 『選択肢は二つあります。このまま支援を続けて、なくなり次第学校に補給に戻る。 これはタイミング次第では最悪な展開になるかもしれません。 逆に今の内に敵を徹底的にたたいてから補給に行き、すぐにこっちに戻るという方法もありますが……』 「補給に戻ったとして、何分で俺たちの支援に復帰できる?」 俺の問いかけに、古泉はしばし思案して、 『20分……いや、15分で戻ってみせます』 15分か。なら耐えられるかもしれないな。その後は、またそのときに考えればいい。 「よし、古泉。今あるだけの弾を敵にぶち込んでくれ。終わり次第、即刻補給して戻ってこい。 その間は何とか耐えてみせるさ」 『わかりました。健闘を祈ります』 古泉のUH-1が高度をやや下げ一気にミニガン掃射を開始する。俺たちは近づいてくる敵以外には 発砲を控え終わるのをじっと待った。 やがてミニガンを撃ち尽くした古泉ヘリは、学校側へ方向転換し、 『終わりです。すぐ戻りますので、その間はお願いします』 そう言い残して学校に戻った。俺は生徒全員を見回し、 「よし、古泉が戻るまで何としてでもここを守りきるぞ! 残弾には気をつけろよ!」 檄を飛ばしてまた――その瞬間、俺の右手にいた二人の生徒が崩れ落ちる。射殺されたのだ。 ヘリがいなくなったとたんに二人!? しかも、衛生兵と通信兵だ。よりによって……! 同時にこちら側に浴びせられる銃弾の量が突然増大した。民家の残骸の陰から空き地の様子をうかがうと、 まるでさっきのヘリからの掃射がなかったかのようにシェルエット野郎がこちらに向けて移動してきていた。 一番近い敵はすでに前線基地建物前の路上のすぐそばまで来ている。もうここから10メートルもない距離だ。 いつの間にここまで来やがったんだ!? 俺は必死に敵を追い払おうと撃ちまくったが、すぐに弾切れを起こしてしまう。 あわてて懐から新しいマガジンを取り出し銃に装填する――これが俺の最後の命綱だ。 かなり至近距離での撃ち合いになったおかげで、こっちは物陰から敵の様子をうかがうことすら 難しくなってきた。 ふっと、俺の目線に中を浮く黒い物体が目に入る。柄のついたそれは、俺から少し離れた残骸の陰で 敵と撃ち合っていた4人の生徒たちの足下に落ちた――手榴弾だ! バァンと破裂音が響き、彼らが吹っ飛ぶ。ぼろぞうきんのようにされた彼らは力なくよろけ、地面に倒れ込んだ。 俺は唖然として腕時計で時刻を確認する。まだ古泉が補給に戻ってきてから1分半しか立っていない。 そのわずかな時間で6人がやられた。残りは俺と国木田と後一人――残りの生徒も今銃弾が頭に命中してやられちまった。 ついに俺と国木田の二人だけだ。 国木田はすぐに手榴弾で倒れた生徒たちを救助しようと――と思ったら、息も絶え絶えの彼らを放って、 マガジンやら銃を回収し始めた。俺は反発心と納得が両方とも頭に埋まり、複雑な気分になる。 「ひどいことをしているように見えるかもしれないけど、今は生き残る方が重要だよ。 そのためには使えるものは徹底的に使わないとね」 いつもより少し真剣なまなざしを向ける国木田。そうだな、今俺たちが死んだら、負傷者生徒たちも死ぬことになるんだ。 善意だとか道徳心だとかは乗り切った後で考えればいい。 俺は国木田からマガジンを受け取り銃撃戦を続行する。国木田の的確な射撃のおかげか、 敵が路上を越えることだけは阻止続けた。 ふと、もう1時間は過ぎたんじゃないかと腕時計で時刻を確認すると、まだ古泉が戻ってから8分しか経っていない。 こんな時ばっかり時間が遅くなりやがって! 国木田がマガジンを交換しつつ叫ぶ。 「キョン! これで最後だよ!」 これが国木田の最期の言葉だった。ガガガガとAKが炸裂する音が響いたとたん国木田の身体が崩れ落ちる。 弾丸が顔面に命中したのだ。 「国木田っ!くそっ!」 俺は声をかけるものの、額を撃ち抜かれた国木田はぴくりとも動かない。完全に即死状態だった。 路上を越えようとしていたシェルエット野郎2人を撃ち殺し、すでに息絶えている通信兵から無線を取り出す。 「……ハルヒ聞こえるか?」 『どうしたの!? 何かあった!?』 ――また接近してきた敵を撃ち殺し―― 「国木田がやられた。もう残っているのは俺一人だ」 『……うそ』 唖然とした声を上げるハルヒ。 「何とかできるところまでは粘るつもりだ。もうすぐ古泉が戻ってくるだろうしな。それまではなんとか――」 『キョン!』 せっぱ詰まった声を上げるハルヒ。 『いい!? これは絶対命令よ。拒否なんて許さない。今すぐに川を渡って学校に戻りなさい。 そこをこれ以上守る必要なんてないわ。あの川なら徒歩でも何とか越えられる! だから戻りなさい! そこで出た犠牲の責任は全部あたしが背負うから! だから逃げて! お願い!』 「できるわけねえだろうが、そんなことっ!」 思わず怒鳴りつけてしまう。俺は額を抑えて――また敵がやってきたので撃ち返して追い払う―― 「ここには俺が行くって言ったんだ。それで仲間がついてきてくれた。なのに、その仲間がみんな死んでいるってのに、 俺だけおめおめと逃げ出すなんて絶対に拒否するぞ! 絶対にここから動かないからな!」 『キョン……キョン……!』 ハルヒは悲痛な声で俺のあだ名を呼び続けるだけ。見れば、数十人にふくれあがったシェルエット野郎が次々に こちらに突撃を始めていた。 「ハルヒ。俺からの頼みだ、聞いてくれ」 俺は息を吸い込んでありったけの思いを込めて言う。 「死ぬな。絶対にだ!」 そして、ハルヒからの返答も聞かずに俺は無線機を投げ捨て、路上を越えて突撃してきたシェルエット野郎数人に向けて 乱射する。不意を食らったのか、あっさりと命中していつものようにはじけ飛んだ。だが、続々と後続が接近してくる。 俺はとにかく無我夢中に撃ち続けた。弾が尽きればマガジンを交換し、それもなくなれば別の生徒が持っていた M16に持ち代える。路上を越えてくる敵は、昨日の北山公園の時と同じく突撃バカみたいにつっこんでくるだけだった。 残骸の破片が銃弾を受けて飛び散り、俺の頬を傷つけたがもはや痛みすら感じている暇もなかった。 乱戦の中、自分自身をほめてやりたくなるぐらいに粘っているが、弾は減る一方だ。 ついに今握っているM16が最後となる。これを撃ち尽くせば、俺も終わりだ。手を挙げて降伏しても、 助けてくれそうな敵でもないしな。 また一発また一発と撃ち、敵を打ち倒す。それがついに最後の一発となった瞬間―― 「うっ!?」 最後の一発は発射されなかった。数え間違えていたらしい。敵を真正面にしながら残弾ゼロ。 もう敵はAKをこちらに向けて構えている…… ……終わりか。また学校の部室でハルヒやSOS団の連中と会えれば良いんだが…… 呆然と放心状態に陥りかけていた俺を現実に引き戻したのは、突然目の前に現れたトラックだ。 北高と前線基地に物資を輸送していた大型のトラック。だが――橋が爆破されたって言うのに、 どうしてここにいる? 荷台には武装した生徒たちが乗り込み、空き地から突撃してきていたシェルエット野郎に向けて一斉射撃を始めていた。 同時に上空に古泉ヘリが舞い戻りミニガンの掃射を開始する。 「……助かった……のか?」 「ええもちろん」 呆然とつぶやく俺に言葉を返したのは、トラックの運転席に座っていた喜緑さんだった。昨日見たときとは違い、 セーラー服ではなく、迷彩服に身を包んでいる。 「遅れてすみません。なかなか手こずりました」 「えと……あの、どうやってここに?」 死んだと思ったが、突然現世に復帰したもんだからどうも違和感が抜けない俺。言葉遣いもたどたどしくなっているのが、 自分でもよくわかった。 喜緑さんはいつものにこやかな笑顔を浮かべつつ、 「橋は修復しました。長門さんの努力のたまものです」 「長門が……ってまさか情報ナントカができるようになったのか!?」 俺は歓喜の声を上げそうになるが、残念ながら喜緑さんは否定するように首を振り、 「それはまだです。3つほどの突破口を見つけましたが、そのうち一つを犠牲にして、 橋の修復を行いました。貴重な手段なので、安易に使うのはどうかと思いましたけど、 長門さんにとってあなたを救出できるようにすることが最優先だったようですね」 そうにこやかに喜緑さん。長門……本当に何とかしちまいやがった。すごすぎるよ。 「さて、ここは学校からの予備人員で守ります。今の内に遺体と負傷者をトラックに乗せてください。 それとあなたも。総指揮官からの絶対命令のようですので」 さっきからトラック据え付けの無線機からキーキー聞こえてくるのはハルヒの声か。 どうやら俺に学校に帰れ!と叫んでいるらしい。 ふと、トラックの荷台に載っていた生徒たちの射撃が収まる。空き地方面を見てみると、 敵が後退していくのが見えた。なんだ? どうしてこのタイミングで逃げ出す? 「おそらく予期せぬ情報改変に敵が混乱しているのでしょう」 にこやかに喜緑さんが解説してくれる。何はともあれ、今がチャンスだろう。とっとと負傷者を回収しなけりゃな。 ◇◇◇◇ 「本当に戻るんですか? 命令違反ですが」 負傷者と遺体を載せたトラックが北高へ向けて戻っていく。喜緑さんは最後にそう言っていたが、 俺はハルヒの方に戻ると言って、学校への帰還を拒否した。なあに、命令違反なら今までも散々やっているいまさらだ。 大体、ハルヒも長門も古泉もたぶん朝比奈さんもみんな必死なのに、俺だけ学校に引っ込んでいられるわけもない。 で、ハルヒのところまで戻ると予想通りの反応を見せてくれた。 「あーんーたーはー! 一体どれだけ命令違反を犯せば気が済むわけ!? 逃げろって言っているのに拒否するわ、 学校の守備に行けって言ったらこっちに戻ってくるし! 総大将の命令をなんだと思っているのよ!」 とまあものすごい剣幕で胸ぐらをつかみあげられた。一体どんな腕力をしているんだこいつは。 俺はあたふたと説明しようとするが、胸ぐらをつかみあげられてまともに口がきけるわけもなく、 ただ口をぱくぱくされるぐらいしかできない。ハルヒはひたすらガミガミ怒鳴っていたが、 やがて言いたいことも尽きたのか、俺から手を離し、 「……とにかく! 今後はあたしの命令に従うこと良いわね! 仕方ないから、ここにいてもいいけどさ。 これからはあたしのサポートをしてもらうわよ。どんなときでもあたしのそばにいなさい! 絶対絶対命令だからね!」 そう言ってぷんぷんしながら去っていった――ってどこに行くんだあいつは。 しかし、よくもまあ乗り切ったものだと自分で自分に感心する。普段の俺なら絶対に精神的におかしくなっていただろうが、 これも仕組んだ奴が頭をいじくったせいということにしておこう。だが。 俺はふとハルヒの背中を見る。長門と古泉の予測ではハルヒは何の人格調整も受けていないと言っていた。 なら、あいつは普段の精神状態のままこの地獄のような世界で指揮官なんて言う役割を演じている。 その両肩にかかっている重圧や責任感はどれだけのものなのだろうか。 そして、ハルヒは一体どんな思いでそれを背負っているのだろう。俺はハルヒの背中を見ながらそんなことを思った。 ~~その6へ~~
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涼宮ハルヒの遡及ⅩⅢ 何か、とてつもなく面白い夢を見た気がした月曜日の朝。 ただ、それが何かをどうしても思い出せないまま、いつものように強制ハイキングコースを踏破し、休日明けの気だるさを感じながら、教室へと入った途端、 「ほら見てキョン! 一気に下書きまでだけど最後まで書きあげたわ!」 赤道直下の真夏の笑顔でハルヒは俺に三十枚はあろうかというA4用紙を突き付けてきた。 「てーと、一昨日言ってたアレか?」 「うん。なんかその日の晩、バンバンアイディアが出ちゃって昨日一日、これに費やしてたのよ。でもまあ、こういうのも悪くないわ。自分の想像が瞬時にそこに現れるんだから」 なるほどな。 俺が一昨日、何気に呟いたクリエイターの話にハルヒが乗った訳だが、それにしてもここまでやるとはね。いやマジで恐れ入ったよ。 相変わらずとんでもないバイタリティだ。 …… …… …… 何だ? 妙な違和感を感じたような気がしたんだが…… まあいいだろう。おそらく気のせいだ。 「んじゃあまあ、どれどれ」 呟き、俺は原稿に目を通す。 ほほぉ。文化祭の時の映画の続編か。 さすがはハルヒ。多方面に高い才能があるのはここにも表れている。 下書き段階とはいえ、臨場感もあるし、キャラクターの表情も豊かだ。んでコマ割も完璧に近いものがある。絵ももちろんレベルが高い。 あーでもページにまたがる見開きはやらなくていいぞ。 「へぇ、今回はユキも味方になるんだな」 「ふっふうん♪ 少年漫画の王道ってやつよ! 昨日の敵は今日の友! それにやっぱSOS団の誰かを敵にしたくないしね!」 それはいい傾向だ。お前が長門、朝比奈さん、古泉のことが大事になってきている証拠だ。 「ん? 何だ? ひょっとして俺も出てくるのか……?」 少し渋面を作って感想を述べる俺に、ハルヒが、あの悪だくみニヤリ笑いを浮かべて、 「感謝しなさいよ。あんたにも役を作ってあげたんだから。でもまあ、あんたには何の特徴もないからね。だからバトルには参加させられなかったけど」 自信満々に説明してくれる。 ……別に無理に俺の役なんぞ作らなくてもいいのだが……モブキャラにだってできないだろうに…… って、 「おい、俺が何で異世界人とやらと知り合いなんだよ? いったいどういう伏線で?」 「決まってるじゃない。サイドストーリーよ」 「あのなあ、どこにサイドストーリーがあったんだよ。読者に想像力を働かせろってか?」 「別にいいじゃない。今回、初めてやってみたんだから、次回はもっと良くなるわよ。それよりも続きを見てよ」 「ああ解った……」 ふむふむ。 ユキが味方として蘇ってきたのは異世界人ではあるが同じ『魔法使い』の彼女の言葉に心を動かされて、か。 「ところでハルヒ、この異世界人の魔法使いって、ユキと比べると随分、派手な姿の魔法使いだな。バニーとかチアまではいかんがノースリーシャツにホットパンツで生足全開て。結構露出度も高いし」 「はぁ? それくらいで何で『派手』なのよ?」 「それに、この魔法使いの髪の色って桃色だろ? 充分派手だと思うが?」 「へっ?」 あん? 何だ? ハトが豆鉄砲喰らった顔して。 「いや……何であんたがその魔法使いの髪の色が桃色だなんて分かったのかなって……? まだ下絵段階だし、あたしも言ってないし、別に着色もしてないのに……」 え? あ、そう言えば何で俺は桃色だなんて考えたんだろ……いや待てよ? 「ハルヒ、お前今、『分かった』って言ったよな? てことはお前も桃色にするつもりだったってことか?」 「う、うん……でもまさかキョンに気づかれるとは思わなかったけど……」 二人しばし沈黙。 ぐ、偶然だよな…… 「ま、まあそれはお前の行動パターンだから俺が読めたってことだ! 深く考えなくてもいいだろう!」 「そ、そうね! なんだかんだ言ってもあたしとあんたは一緒にいることが多いもんね! お互いがお互いの考えなんておおよそ見当つくわよね!」 そうだそうだ。俺とハルヒの付き合いだ。そうこともあるさ。 で、実は後々思ったんだが、どうも俺たちのこの会話の時の教室中の視線がなんとも生暖かったようなのだ。 当然、今の俺は気付くことなんてできなかったがな。 さて、それよりも続きを…… 「……なあハルヒ、これ、本当に長門なのか?」 「どういう意味?」 俺が指差したのは異世界の魔法使いと供に戦うユキのシーン。 「いや……なんとなく長門なんだけど長門じゃないような気がしてな……」 「ああ、それ有希よ間違いなく。ただ、改心したユキはヘアカラーが変化したのよ。グレーアッシュからシアンに。ほら、昔あったじゃない、星座をモチーフにしたプロテクターを着て戦うバトルマンガ。その中の双子座の戦士の性格が二つあって、アニメだと善の時の髪の色はシアン、悪の時の髪の色はグレーだった訳だけどそれに倣ったの」 なるほどな。つーか、よく知ってるなお前。 「ふっふぅん♪ あたしは少女漫画よりも少年漫画の方が好きよ。だって、そっちの方が不思議な展開と力で満ち溢れてるもの」 確かに。というか、お前の朝比奈さんへのセクハラは多分に一部の少年漫画の影響を受けているような気がしてならんかったからな。 …… …… …… 何だ、この感覚は? このマンガの二人、ユキと異世界の魔法使いの立ち振る舞い…… まるで、どこかで見た気がする。 しかもどういうことだ? ハルヒは長門と、と言う風に言っていた。このデッサンも確かに長門のはずなのに…… しかし俺には長門と別の誰かが被っているようにすら見える。 おかしい。そんなことはあり得ない。 だいたい魔法が登場する時点で現実からは外れているんだ。 もし見たことがあるとしたら夢の中以外に答えはないじゃないか。 「どうしたのよ?」 「あ、いや……なんでもない……」 「ん? 変なキョン」 ハルヒは何も気づいていないのだろうか? まあ問うのは止めておくけどな。 こんなことをこいつに言えば、力の限り馬鹿にされるか、俺の頭を切開して夢の中の記憶を引き摺り出そうとするか、するかもしれん。 そんなこんなで今日も放課後だ。 放課後と言えば、もう完璧に習慣化しているので旧館の一角『文芸部室』に勝手に足が向く。 んで、今日はハルヒが掃除当番だから先に着き、長門、朝比奈さん、古泉に軽く挨拶して、長門が読書する姿を横目に捉えながら、朝比奈さんが注いでくれたお茶で喉を潤しつつ、俺の白星しか増えない将棋を古泉と指している。 しばらくするとハルヒが入ってきた。 「ごっめ~~~ん! みんな、揃ってる?」 見ての通りだ。 などと軽く言葉を交わしつつ、今日は月曜日であるにも関わらず、明日がどういう訳か祭日と言うことで、ハルヒは団長机の椅子に仁王立ちになった。 「みんな! 明日は特別不思議探索の日に設定するからね! 集合はいつも通り、光陽園駅北口午前九時! 一番最後に来た奴が奢りだから!」 満面の300W増しの笑顔で高らかに宣言するハルヒ。 まあいつものことだから、今更何の感慨も持たないが。 が、どういう訳か、俺はハルヒの次のセリフに言い知れぬ違和感を抱いたんだ。 「探索目的は、宇宙人、未来人、超能力者、そして異世界人よ! 原点回帰! 明日こそ必ず見つけるわよ!」 いったいどういうことなんだ? これはいつもハルヒが言っていることじゃないか。 どうして俺は違和感を抱くんだ? などと言う俺の内に広がる違和感は、しかしいずれ時が経てば水面に広がる波紋のように消えていくんだろうな、という思考も頭を過った。 と、このときはかなり気楽に考えいたのだが。 どういう訳だろう? どうやら違和感を抱いていたのは俺だけではなかったらしい。そのことは翌日の不思議探索で知らされることになる。 「ねえキョン」 「何だ?」 何の因果か、いつも通り俺が一番遅かったんで、いつも通りみんなにお茶を奢って、いつも通り班分けしたのが今日に限ってはいつもと違い、同じ班になったのはハルヒだったりする。 で、最初はなかなかテンションが高かったハルヒなんだが、公園から街中を散策する道すがら、どんどん神妙になっていった。 これは何を意味するのだろう? 「うん……昨日、見てもらった漫画なんだけどね」 「あれか」 「アレって妙なのよ。昨日、キョンが指摘した通りで、あたしも家でもう一回読み返してみたらキョンと同じ感想を抱いたの」 「と言うと、異世界人の魔法使いの髪の色が桃色だったり、ユキの髪の色がシアンだったり雰囲気が違うって言ってたことか?」 「そうよ。あたしもそう感じたの。あの感覚って何なのかな? 実のところ、既視感ってのとも違う気がしてるのよね」 確かにな。それは俺も思ったことだ。 「しかし、だとするとどういう意味になるんだ? それじゃあまるで、俺たちはそういうことがあったのに記憶を操作されて記憶を消された、ってことになるのか?」 などと言った俺が馬鹿だった、なんて普段の俺ならそう思うかもしれん。 もっとも、今回は違った。 「あ……!」 ハルヒが愕然とした声を漏らす。 「まさか……!」 俺もまた、自分が導き出した答えに言い知れぬ驚きの声を漏らしたんだ。 そして二人して自分の懐をまさぐり、同時にお互いに手の中の物を見せ合う。 それは、まったく記憶にない、しかし持っていた、と確信を持って言えるものだった。 俺たちは淡い光沢を放つ神秘的な黒い石を互いに見せ合って、 「キョン、もしかしてあたしたち、この石の持ち主、宇宙人だか未来人だか超能力者だか異世界人だか知らないけど、そういう存在に遭ったのかな?」 「かもしれないな。俺もそんな気がした」 「てことはさ!」 ハルヒの笑顔が300W増しプラスさらなる輝きを放つ。 「また遭えるかもしれないわね! んで今度こそ、記憶を消されないように友好関係を結ばなきゃ!」 ああそうだ。 何故だろう? 俺はこのとき、ハルヒの提案をいつものように聞き流すでもなく、本気で受け入れる気概を抱いたんだ。 理由か? そうだな。おそらくは忘れていけない何かを忘れさせられてしまったからだろう。 確信はない。しかし漠然とではあるがそう感じる自分が居る。 そして、おそらく――いや、間違いなくハルヒも同じことを考えただろうぜ。 どこの誰かは判らん。俺たちの記憶を消した理由も知らん。 けどな、ハルヒ相手に記憶操作なんて大胆な真似をしたところで、完全に消すことなんざできる訳がないんだ。 近いか遠いかは知らんが、将来、必ずあんたのことを思い出すだろうよ。 そうなったら、ハルヒがどういう行動に出るかは容易に予想できるってもんだ。 もちろん、その時は俺もハルヒに付き合うぜ。 おっと、ハルヒと俺だけじゃないよな。 ハルヒが会心の勝ち気な笑顔を浮かべて空を指差している。 「待ってなさいよ! 宇宙人、未来人、異世界人、超能力者の内のどれか一つの肩書を持った人! あたしとSOS団が必ず見つけ出してあげるんだから!」 だとさ。正体不明の誰かさん。 涼宮ハルヒの遡及(完)
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※このSSは、大槻ケンヂさんの小説「ステーシーズ」を元ネタに書いています。 そういうのがダメって言う人にはすいませんです。 「あんただけなんだから、こんなこと頼めるの」 学校へ向かう坂道の途中で、ハルヒはくるくると笑いながら言った。 ぼんやりと歩く俺の前で、まるで糸の切れた凧みたいにふわふわしている。 秋の風がかさかさに軽くなった木の葉を掃き散らしながら過ぎていく。 「心配しなくても、ちゃんと再殺してやるさ」 「イヒヒ、頼むわね」 その時丁度、俺はいつだったか本で読んだ「一生、死ぬまで離さない」という言葉の無責任さについて考えていたので、もう何度も何度も聞いた彼女の台詞に、ほぼ無意識で返事をしていた。 「死ぬまで」だけだなんて、悲しいじゃあないか。 なーんてね。無責任だな。 ふたりして律儀に内履きに履き替えて、耳に痛いほどしんとした校舎を歩く。 ぺたぺたという俺の足音と、舞うような軽快なハルヒのステップだけが響いては消える。 薄く空全体を覆う雲のせいでどんよりと暗いが、今はまだ午前中、普通なら3限目の現代文を受けているような時間だ。 最後に受けた授業では 何を読んでいたっけ。舞姫だったかな。昔の小説はあんまり好きじゃないんだよな、あれは特に暗いし。宮沢賢治のやまなしだっけか。あれは好きだったな。意味わからなかったけど。 やまなしを読んだのは一年の時だっけか。いや、中学の頃だったかしらん。現代文はいつも睡眠時間だったから記憶が曖昧だ。 現代文なんて勉強しても点数が伸びない派の俺ががっつり寝る体勢に入ると、勉強しなくても点数がとれる派のハルヒに脇腹辺りをシャーペンでつつかれて、よく邪魔されていたな。 今俺の目の前で、幸せそうに、すごく幸せそうに笑うハルヒは、 そう、サワガニの兄弟の言った「かぷかぷ笑った」という描写が一番しっくりくるんじゃないだろうか。 一人で納得しているとハルヒは俺に向き直り、 「何ぼーっとしてるのよ。まったくあんたは」 現代文の授業の時と似たような台詞を、ニアデスハピネスの微笑みで。 ハルヒはもうすぐ死んでしまって、 さらにもうしばらくして、醜い姿をさらし人肉を求めて動き回るステーシーになる。 学校が機能しなくなってから久しいので日にちの感覚が曖昧で確かかどうかはいまいちだが、あれはたしか一ヶ月、つまり大体30日くらい前の事だ。 放課後の部室、朝比奈さんが新しく買ったという葉っぱでミルクティーを入れ、 俺と古泉が2人でダウトという暴挙に出て、 長門がいつものように鈍器クラスの本のページをめくり、 ハルヒがパソコンをいじりながらあくびを殺して殺して殺しまくっていた、いつもとおなじように時間の流れる日だった。 俺がゲームが終わらないという危険性に気付きながらもダウトを続け、朝比奈さんがかわいらしーくくしゃみをしたとき、弛緩しきった部屋の中で急にガタンと音がした。 またハルヒが騒いでなにかやらかそうとしているのか、と面倒ながらも目向けるが、 なんだ容疑者候補だったハルヒも目を丸くして口を開けているじゃないか。 その視線の先には、凶器になりそうな厚みの本を抱えたままパイプ椅子から転げ落ちて、ピクリとも動かない長門があった。 状況がつかめない焦りと、長門に対する心配と、パンツが見えそうだという雑念でごちゃ混ぜになった俺が当惑していると、 長門はよろよろと立ち上がり、何事もなかったかのように、 いや違う。何物か遠くの物を睨むようにして、目を見開いていた。 4人の驚愕の視線を浴びながら、長門は微動だにせず、ぼうっと突っ立ったままだった。 何かの冗談だろうか。 あれだ、また朝倉かなんかそんな感じの敵っぽい奴がやって来たのだろうか。 だとしてもハルヒに勘づかれるようじゃ駄目だろう。 見ろ、怯えたような顔でお前を見ているじゃないか。 「おい長門、一体どうし」 「あははは」 「あはははははは」 「あはっひイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒ皮膚ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ ヒヒヒヒッイヒヒキ嬉嬉嬉嬉嬉嬉嬉々ィヒヒヒッヒヒ ヒヒヒヒ嬉卑卑ひヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」 紐を引いたらがたがたぶるぶる震え続ける人形、あれってどういう名前なんだろう。 自分の舌を血だらけにしながらぐりんぐりん笑う長門を見て、俺はただただ呆けたように立つ他にすることがなかった。 いつもの冷静沈着で無口なお前はどこに行ったんだ、 お前は。 「有希!一体どうしちゃったのよ!」 泣き出してしまった朝比奈さんを母親のように抱き締めながら、ハルヒは泣きそうに長門に言う。 何もできないでいる俺は、古泉が長門に駆け寄るのをぼぅっと見ていた。 「長門さん、どうしたんです!しっかりしてください!」 ケタケタケタ笑う長門の肩に手を置いて、古泉は諭すように言う。 あぁ頼りになるな、俺なんかと違って古泉は。流石日々世界を守っているヒーローだな。 お前、自分の好きな女の子がケタケタ笑い震えながら、大声で意味のわからないことを叫んでいても冷静ではないにしてもちゃんとした対応ができるなんて。 流石だな。 「長門さん!」 懇願するような古泉の声が届いたのか、コマが回転を止めるように、ぜんまいが切れたブリキの玩具みたいに、少しずつ静かになった。 「…長門さん」 そういって安堵に微笑む古泉に、長門は微笑み返す。 整った白い歯を見せて、目をぐるんとむいて。 薄紅色の柔らかそうな唇をそっと開き、 もたれかかるように抱きついて、 古泉の首筋にかぶりついた。 「あっああぁぁぁぁあっ痛っあああぁイっ」 古泉に突き飛ばされパイプ椅子にからまって転んだ長門は、口の中で自分の血と古泉の血とをぶくぶく混ぜて吠えていた。 「イタイイタイイツキッイタイヨイタイノイツキイタイイイイタぁぁぁっ 」 だらしなく開いた口からは激しく暴れまわる舌が飛び出て、床に泡立った血を撒き散らす。 肩口を押さえて息を切らしている古泉の制服は赤黒く染まっていて、俺もハルヒも二人を交互に見てあわてふためいていた。 朝比奈さんは、ハルヒの足元にこてんと座り込んで、涙でぐちゃぐちゃの顔一杯に疑問符を浮かべていた。 「おい、長門」 ようやく出てきた声は多分ほとんど聞き取れないようなものだったろう。 それでも長門は俺を見てカタカタと笑った。 ひんむいた白目でちゃんと見えているのかどうかは疑問だが、長門はゆっくり立ち上がって俺たちの方に歩いて来る。 やばい。 何かは知らんがやばい。 何故とかどうしてとかそんな場合じゃない。 「ハルヒッ!朝比奈さんを連れて逃げろ!」 固まったまま動かない朝比奈さんとハルヒがばたばたとうるさく部室から出ていく。 長門は依然かわりなく、糸のもつれた操り人形みたいに足をガクガク動かしてゆっくりと俺と古泉に近付いてくる。 「古泉、なんなんだこれは」 「…僕が…聞きたいくらいです」 そーかい。 またハルヒの力のせいか?だとしたら何を思ってこんなことを望んだ? 畜生、畜生。 長門は笑う。 俺は今にも泣いてしまいそうだ。 なぁ長門、俺はどうすればいい? 何かあったときにいつも助けてくれていたお前を、今俺はどうしたらいい? ************************ ハルヒは遊園地のアトラクションへと急ぐ子供のように、部室への廊下を走る。 あちらこちらに砕けたガラスや風に乗ってきた枯れ葉や血の跡が見られる。 たった1ヶ月くらい放っておくだけでこんなになるとは。 かったるかったが、やっぱり毎日掃除するのって大切だったんだな。 こんな状態だったなら土足で来ても変わらなかったかもな。 「久しぶりね、ここにくるの」 そうだな、ハルヒ 「前までは毎日くらい来てたのにね。 少しくらい懐かしい気分になるかと思ったのに、 なんだかそんなこともないわね」 まだ俺らの中で当たり前の感覚なんだろう。そう言うと、ハルヒはまたかぷかぷと笑った。 「色々あったって言うのに。 イヒヒヒヒ、変わらないなんてね」 すまんハルヒ、俺はちょっと嘘をついている。 俺は、前と同じ気持ちではここに立てないんだ。 でも、きっとそれは、気付かないだけでお前も同じだろう、ハルヒ。 ****************** がしゃん、ばりん、ぶつん。 狼狽しきりだった俺の目の前で、窓ガラスが割れて、 何かが転がり込んできて、長門は赤い線で上下二つに別れた。 があっ、 と血を吐いて長門の体が長門の足に背中から崩れ落ちる。 うどんの玉を落としてしまったみたいな音がして、床には赤黒い水溜まりが広がる。 血にまみれ真っ赤なチェーンソーを持った朝倉涼子が、 制服に血がついてシミにならないかを気にしていた。 「…朝倉?」 「ねぇキョンくん、背中とか髪とかに血、付いてない?大丈夫?」 シミひとつない青いスカートと長い髪を翻し、朝倉は言う。 チェーンソーはどるんどるんと図々しく鳴って、部屋を油臭くする。 血の臭いと混ざって、交通事故現場みたいな臭いになる。 朝比奈さんの入れてくれたミルクティーがひっくり返ったのだろうか、 いやに甘い臭いが肺を苛々させた。 脳の中がぐちゃぐちゃになって、言いたいことは言葉にならなかった。 俺は酸素が足りない金魚みたいに口をパクパクさせていた。 誰かが答えをくれないだろうか、と。 「思いきったことやるわね、長門さんとこの上司も」 「なんでお前がここにいるんだ、なんで長門はこうなった、 なんで長門を殺したんだ」 「そんなにがっつかないの、ちゃんと答えてあげるから」 朝倉はチェーンソーを構え、俺に笑いかけながら言った。 「殺しちゃいないわよ、元々死んでいたんだもの」 びちゃりと音が足元でなる。 赤い水溜まりのなかで泳ぐ蛙みたいに、長門の上半身は俺を睨んだ。 微笑んだ長門の口は、両端が裂けていた。 いくら食いしん坊だからって、それはないだろう長門よ。 「ちょっとでいいから、下半身の方よろしくね」 見ると、長門の腰から下は上半身とは別の方向に向かうように暴れまわっていた。 何度も蹴られそうになったが、下半身だけでは威力が弱いので すぐに両足首を捕まえて長門の白くて細い足を黙らせることができた。 「よし、じゃあ見ててね」 朝倉はそう言って、爪を立てて這いずる長門の首を踏みつけて、 どるんどるんうるさい機械で容赦なく解体を始めた。 突きつけられたチェーンソーは、切り裂くと言うよりは 引きちぎるように長門を細かくしていった。 朝倉が新しい破片をつくるたびに、 長門の足は逃げ出そうと激しく暴れた。 なぜかなんて聞いたって、朝倉は何も答えてはくれないだろう。 大好きな恋人にグラタンを作ってあげているときの笑顔で 長門を殺し続けている朝倉は、 きっと他の誰かの言葉なんて聞きやしないだろう。 「いつかあなたもやらなきゃいけないかも知れないんだからね」 これがグラタンの話ならばよかったのに。 朝倉があまりに手際よく長門をバラバラにしていくので、 気づいたときには俺の手には長門の足首しか残っていなかった。 それはまな板の上の魚みたいに弱々しく跳ねていた。 床ではさばきたての新鮮な肉が、ひくひくと蠢いていた。 白い指が何かを探すように床を引っ掻いていたが、 朝倉がそれを踏みにじる。 俺の手に残っていた内履きは、それきり動かなくなった。 最初は返り血を気にしていた朝倉も、 今では赤黒く染まっていない方が少なくなっている。 空回るチェーンソーを携えて赤い池の中に佇む朝倉を見て、 俺はエリザベート・バートリとかいう吸血鬼を思い出していた。 吸血鬼を探そうとか言ってたときに、古泉が持ってきた資料に載っていた。 全く、美しくなんか、ない。 血を白い頬に伝わらせて、 恍惚している少女に、俺の心は、 ときめいたりなんか、しない。 「なんなんだ、これは」 チェーンソーの音が止まる。朝倉が俺の目をまっすぐ見る。 「飽きたんですって」 やれやれ、とため息混じりに言った。 「地球外生命体、つまり宇宙人っていると思う?」 そりゃ、お前や長門がそれだろう。 「違う、違う。あくまで有機生命体の話よ」 いる可能性は全くのゼロじゃないらしいが、だからなんだって言うんだ。 朝倉は淡々と語る。 「情報統合思念体は、この地球に生息する知的生命体を発見していたの。 それこそ高度な文明を築くものもいたし、程度の低いものもいたわ。 涼宮さんの監視を始めた少し後に、そのうちの一つから涼宮さんのそれと 似たような規模の情報フローが確認されたらしいの。 それは、私たちには知らされていなかったけどね。」 ハルヒみたいなやつがもう一体いるのか。 じゃああっちにも俺らみたいに振り回されてるやつがいるかもしれないんだな。 いや、そんなことじゃなく、 「はじめのうちは規模、頻度共に涼宮さんの方が 上回っていたから比較的そっちは軽視してたんだけどね、 最近は涼宮さん、すっかり落ち着いちゃったじゃない?」 それは俺や朝比奈さんや、 古泉と機関の人達の努力の賜物だ。それがどうした。 朝倉が何を言いたいのか、 情報なんたらとかいうやつの思惑が何か、まだ掴めない。 「だから、飽きちゃったんだってさ。涼宮さんに」 「もうひとつの観察対象からはすでに一定のデータを集めていて、 進化のヒントの糸口みたいなものが見つかるかもしれないんですって」 朝倉はどうでもよさげに言う。 「で、涼宮さんはこの調子。 突拍子もないことをやらかしたり、世界を滅ぼしかけたりしたくせに、 成果は残念。 下手したらあっちの観察対象にも悪影響が出るかも、 ってことで観察は打ち切り。はやいとこ片付けちゃおうってなったの。 腹いせに人類ごと」 意味がわからない。言っていることはわかるが、理解できない。 「それで主流だった長門さんの上司が採用した方法が、これ」 足の先で長門だったものをこねくりまわす。 「15,16,17歳の少女が突然死、その後ゾンビになって人を襲うようになる。 そんな奇特な病気を作って、自分の管理下においている インターフェースをきっかけにアウトブレイクさせる。 なかなか酷いやり方だと思わない?」 そう静かに話す少女の眼はキラキラと濁り輝いていた。 「それでね、ただゾンビにするだけってのも趣がないからって、 適当に色んな設定を追加したらしいのね」 少女たちは死ぬ前に気が狂ったように充足、幸福を感じること。 そして死ぬ前の少女たちは死に対して肯定的になること。 ゾンビになった少女は165個の塊に切り刻むまで動き続けること。 少女たちは何の前触れもなく発病するが、体液からも感染すること。 その他諸々素敵なオプションをつけて。 そのどれもが、混乱を巻き起こすのが目的の悪意に満ちた腹いせだという。 「…なんで、こんなことをしなきゃならないんだ! 見切りをつけるにしても、他にやりようがあるだろう!」 「知らないわよ。強いて言えば、暇潰しじゃない?」 こともなさげに朝倉は言う。 「理不尽な死なんて、普通に生きていても 誰にでも起こりうるものなんだから、 納得して諦めたら?」 「…はいはいそうですか、なんて素直に納得できるはずないだろう」 「納得しなくてもなんにも変わらないんだけどね」 朝倉は俺に笑いかける。 「、ちなみに、感染してゾンビになるのは女の子だけ。 その他の場合は」 すっ、と 古泉の方を指差す。 「ああなるから」 床に転がった古泉はすでに呼吸をやめていた。 廊下から甲高い悲鳴が飛び込む。 「キョンッ!」 しまった。 ハルヒを廊下に逃がしたが、それだって安心だっていう保証はないんだ。 廊下一杯に溢れる女子生徒のゾンビが思い浮かぶ。 畜生。 「ハルヒッ!」 乱暴に扉を開く。 ハルヒの腕をつかみ、部室に引っ張りこむ。 「ハルヒ、大丈夫か、何があった」 ハルヒは肩を小さく震えさせ、奥歯がカチカチと鳴っている。 その肩を抱き締める。 「……る……、………んが」 虫の羽音みたいな声が震えている。 「……みくる、ちゃんが…………」 ハルヒの手には、見慣れた安っぽい衣装があった。 「みくるちゃんが、消えたの、突然、急に、目の前で、突然」 その事実が示す先の絶望を知りながら、 俺はただただハルヒを抱き締めることしかできなかった。 「……ははっ」 耳元で、 「……あはははっ」 笑い声がした。 「あはははははははははははははははははははははは はははははははははははははははははははははははは はははははははははははははははははははははははは はははははははははははははははははははははははは はははははははははははははははははははははははは はははははははははははははははははははははははは」 俺はハルヒを強く抱き締めることしかできなかった 「あははははははははははははははははははははッ 死ぬのね、私、死ぬのね今からウキウキしてきちゃった! どうしましょう!今から準備していかなきゃ! 何が必要かしらね?イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ どんな風がいいかしら?ロマンティック?バイオレンス? 今の時代いろんな前例があるってのが嬉しい反面、 画期的なものが出尽くした感があるわね!どうしましょう!」 ハルヒ。 「そうよ!そのときはキョンも手伝ってくれるわよね! 退屈な、誰とも知らないような人間に看取られたり 病院のベッドでおとなしく消えていくなんて嫌だもの!」 ハルヒ。 「大好きな人に抱き締められながら死ぬなんて、 ありきたりだけどやっぱり憧れるわよね!イヒヒヒヒヒ! 王道ってやつもたまにはいいわよね!ねぇキョン! イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」 ハルヒ。 大好きだ。 ***************** ドアノブを回し、ゆっくりと部室の扉を開く。 美術との格闘の末に気を違えてしまった芸術家のアトリエみたいに、 床や壁は赤黒い前衛的な模様でいっぱいだった。 30日くらい前、朝倉はここで長門を165個の肉塊にした。 30日くらい前、古泉は長門に噛まれてここで息絶えた。 30日くらい前、朝比奈さんと一緒に俺たちの未来が潰えた。 あの後、気が付くと朝倉はチェーンソーを残して消えた。 俺に何かを期待してのことだろうか。 しばらくして、校舎のあちらこちらから悲鳴が上がり始めた頃、 森さんと新川さんがヘリに乗ってやってきた。 古泉の死体を載せ、俺とハルヒを乗せて学校から逃げ出した。 機関は閉鎖空間が発生していないにも関わらず突発的に 起きたこの状況に混乱しきっていて、なんとか対策をと思い俺を頼って来たという。 俺は、朝倉に聞いたすべてを隠した。 ハルヒがこうなった以上、 全てが無意味になったとなんとなく感じていた。 そわそわふわふわしているハルヒを不審に思われる前に、俺はハルヒの手をひいては歩き出した。 その日の夕方には、政府から的を得ない発表があった。 危険ですから、少女の死体に近づかないでください。 現在、政府の関係機関が調査を進めています。 どうか取り乱したり混乱を招くような行動はしないでください。 世界中で同じような現象が確認されているようです。 WHOはこの事態に対して云々。 俺はそのニュースを、逃げながら隠れながら携帯ラジオで聞いていた。 少女の突然死に混乱した街は、 少女の復活とゾンビ化によってさらに混乱し、 大衆は暴徒に変わった。 まずはじめに、少女たちを片っ端から殺す輩が現れて、 結果としてはゾンビの数を急速に増やすことになった。 突然死した少女を凌辱する輩が現れた。 少女と交わった男たち(あるいは女たち)は、 少女たちの孕む毒によって次々と死んでいった。 一週間ほどして、研究者たちがサジをなげ、 何もできなかった言い訳みたいに 少女たちのゾンビにステーシーと、 少女たちが死ぬ前に見せる狂ったような幸せそうな状態を ニアデスハピネスと名付けることで自尊心を保とうとした。 その頃には、自衛隊が独断でステーシーの再殺の手段を発見し、実行し、 民衆もそれにならって自警団のようなものを組織しはじめていた。 自衛隊や自警団からハルヒを連れて逃げてきて、 こうしてまた部室に戻ってきた。 ハルヒが言うのだ。 「わがままだとは思うけど、私も、 みんなが死んじゃった部室で死にたいの」 「それで、キョンがそばにいてくれて、 看取られながら幸せに死んで、蘇ってもキョンに殺してもらうの。 イヒヒヒヒヒ、とても幸せな最後だと思うの」 古泉が前に言っていたな。ハルヒが死んだら世界が滅ぶかも知れない、って。 それが本当だろうが嘘だろうが、どうせ世界が終わるんだ。 ハルヒが望むようにしてあげよう。 その日もハルヒは死ななかった。 聞くところによると、ニアデスハピネスが現れたら なにもしなくても数日のうちに突然に死んでステーシーになるという。しかしハルヒはあの日から今日までずっとこの調子だ。 今思えば長門は死んですぐだった。 ずっと、ずっとこうならいいのに。 その日の夜は、部室で過ごした。 ハルヒは部屋の隅で毛布にくるまって、俺は椅子に座り机に突っ伏して。 長門と古泉の血の跡がすさまじいが、それ以上のものを 飽きるほど見てきた。この程度で眠れなくなるなんてことはない。 だのに、なのに、眠りに落ちる直前に涙が溢れだして、 呼吸が辛くなって、簡単には寝かせてもらえなかった。 泣きつかれて眠るなんて、 まるで餓鬼だ。 ******************** 「と、こんな夢を見たんだが」 昨日見た夢の話なんてどうでもいいことを、たっぷりと時間をかけて話した。 しゃべりすぎて喉が乾いた。 すっかりつめたくなったお茶は、今の喉にとっては好都合だった。 「ふえぇ、なんだか怖いですぅ」 朝比奈さんはお盆を抱え込んで、涙目になって怯えている。 「んふっ、何か悩みでもあるんじゃないんですか?相談なら乗りますよ」 机を挟んだ向こう側で、古泉が気持ち悪く微笑みながら言う。 それよりも速く次の手をさせ。どのみちもうすぐ投了するしかないんだ。 「………」 長門は無反応。黙々と読書を続けている。 せめて、目線ぐらいくれたっていいだろうに。 「悩みの種ならピンポイントで思い当たるんだがな」 「おや、一体何なんです?」 お察しの通り、今ここにいない誰かさんに関することだ。 古泉は苦笑する。 「そういえば、やつはまだ来てないのか」 「私は何も聞いてませんけど…」 「同じく、です」 うむ、なんだかとてつもなく嫌な予感がするんだが… その時、バタンとでかい音がした。 ********************** その時、バタンとでかい音がした。 寝ぼけた頭がくらくらする。 外はもう明るい。 一体何時だ、それより今の音はなんだ。 慌てて部屋を見渡すと、団長の特等席をひっくり返して ハルヒが仰向けに倒れていた。 頸動脈を切られ血抜きしている最中の羊みたいに、 ハルヒはガタガタと痙攣する。 ああ、時が来たんだ。 もう、ずっと、ずっと前から覚悟してきたことだ。 ハルヒは今ここで死ぬ。 死んだ後、もう一度歩き出すハルヒを俺はチェーンソーでちゃんと最後まで殺す。 責任をもって、殺してやる。 ハルヒはぐりんと目をひんむいて、 絶頂にも似た表情で、舌を突き出して、 涎を撒き散らしながら。 その姿さえも、目をそらさず見てやる。 最期まで、ハルヒのことを見ていてやる。 それが俺の決めたことだった。 しかし、現に今こうやって悶えるハルヒを見るのは、 とてもじゃないが耐えられそうになかった。 吐きそうになった。 もう、すでに泣いていた。 あまりに激しく暴れまわるので、ハルヒの肘や拳には薄く血が滲んでいる。 痛いだろうに、 苦しいだろうに。 「ッッッあぁ」 突然体をつぴんと伸ばしきったかと思うと、 それきりハルヒは動かなくなった。 つー と、ハルヒのスカート辺りに透明な水溜まりができた。 死んで筋肉が緩んだんだ。どこかの本で読んだことがある。 死んでからとはいえ、ハルヒのお漏らしを見るとはな。 こんな状況の中で、常識的で間抜けな事が 起ったせことが、なんとなくおかしかった。 涙でぐちゃぐちゃになった顔で、ほんのすこし笑った。 ハルヒが死んで、部屋の中はそれこそ死んだみたいに静かになった。 いや、キリストみたいにまた復活するんだから、 まだ死んではいないのか?体はまた動く訳だし。 いや、でも、 ハルヒと同じ思考をもって動いてる訳じゃないから、 もうすでにハルヒは死んでいるのかな。 ふっと、悪い考えがよぎる。 ハルヒと同じ思考をしていない、 ニアデスハピネスの、虚ろでふわふわしていて、 俺に、素直に好きだと言ってくれたハルヒは、もうすでに別のものだった? …いや、違う。 ハルヒはハルヒだ。 いつもみたいにめんどくさいのも、 かぷかぷ変な声で笑って俺に寄り添ってきてくれるのも、 死んでしまって、ステーシーになって俺に襲いかかってきたとしても、ハルヒはハルヒだ。 死んでしまっても変わらない。 俺はハルヒが、 すん ハルヒの鼻が微かに動く。 ゆっくりと、突き出した舌が蠢く。 唇を湿らすように、くるくると円を描いて。 まず口から動き出すのは、その歯で肉を裂き、顎で骨を噛み砕き、血をその舌で味わうためだという。 長門じゃあるまいし、そんなに食い意地はって、みっともない。 ハルヒの眼球がぐるぐるぐると壊れた人形みたいに回る。 夢を見ている間、人の眼球はくるくる回るという。 ならば今ハルヒは夢を見ているのだろうか。 どんな夢を見ているのだろうか。 震えが振動になり、全身が忙しく蠢きだす。 スカートが翻り、白い腿がのぞく。 銀色のキラキラがきらめき、 部屋の中にミルクティーに似た甘い香りが広がる。 これはステーシーの体から分泌される鱗粉の香り。 それは、真昼の光で瞬き、美しかった。 ハルヒの肌が、体が、 輝いて見えた。 ハルヒの首がごきゅんと鳴り、それからゆっくりと上半身を起こす。 生まれたばかりのキリンのように、着実に立ち上がる。 俺は、朝倉の残したチェーンソーに手を伸ばした。 にこりと微笑んで見えたが、きっと俺の願望が作り出した錯覚だ。 ハルヒは死んでいるのだから。 そうだとしても、なぜか嬉しくなった。 さぁ、こっちにおいで、ハルヒ。 ちゃんと、最後まで愛してやるから。 報告書(記入者 森園生) 我々が北高文芸部室(通称SOS団部室)に到着した時点で、 少年Dは自警団の発砲によりすでに殺害されていた。 自警団は我々の到着する前に窓から逃亡した模様。 数発の銃弾を受けたステーシーが残されていた。 我々はステーシー特別対処規定に基づき、自警団を捕縛、ステーシーの処分を行った。 使用した装備は別紙に記載。 処分したステーシーが涼宮ハルヒのものであり、 また少年Dがその鍵であった少年だと発覚したのは、 ステーシーの処分後である。 以上